つづきです






「カズ、ちょっといいか?」


「うん?」



教室の隅へと連れて行かれ、神妙な面持ちで顔を近づけてくる潤くん。

何事かと身構えていると「お前に伝言をあずかったんだけど」って。


?…あぁ、そういうことか。


彼の言葉の意味を理解した。

女子から呼び出されるのはそんなに珍しいことじゃないけれど、今は誰の告白も受けるつもりはない。

自分の…

智へ気持ちを伝えることで手一杯で余裕がないからだ。


でもさ?

オレと同じように、悩んで迷って。

それでも勇気を持って告白することを選択した相手を無碍にはできない。


…なんて、ちょっと良い人ムーブを出してみたけれど、勇気を出して告白を決意したのに、その機会すら与えてもらえないなんてキツすぎる。マジで心折れるよね。

告白した結果、自分の方を向いてもらえなかったのは仕方ないけれど、これまでの想いを無かったことにされたくないもの。


オレを呼び出した相手が誰かは知らないけれど、変な仲間意識が芽生えてしまった。

願わくば…

オレも自分の気持ちを智に伝えられますように。



「放課後、特別室棟の3階の…社会科講義室の隣の準備室に来て欲しいって」


「特別室棟の?」



オレは首を捻った。

そんな教室あったんだ?

社会科講義室なんて、授業では使ったことはないし、もちろんその隣の準備室も然りだ。

大体、特別室棟なんて高校入ってから今日までの間でも、2階にある視聴覚室くらいしか使ったことないんじゃないだろうか。

まぁ…とりあえず3階に行けば分かるだろう。



「ふーん、わかった」



これまで潤くんはオレの恋愛事情にはノータッチだったから、彼を介しての伝言というのにちょっとだけ違和感を感じたが…

男女問わず友人の多い彼のことだ。

きっと、何か理由があって断りきれなかったのかもしれない。


自分の席へと戻り、頬杖をついて窓の外を眺める。

ゆっくりと流れていく雲の隙間から太陽が顔を覗かせ、柔らかな光が差し込んでいた。


オレも…腹括んなきゃな。


まだ誰とも知らぬ相手に背中を押され

スマホを取り出し、智の名前に触れる。


"あなた今日の夜ってバイトあるの?"


ふぅ…


細く息を吐き出し

まだ少し震える指先で送信した。





つづく





miu