つづきです
あれから、オレは彼女とは別れ
以前のように、男友達や潤くんとつるむようになっていた。
「なんか、こっちの方がカズらしいよな」
「…そう?」
長い付き合いの潤くんが言うのだから、きっとそうなのだろう。
今までも別に無理をしていたつもりはなかったけれど、どちらが楽しいかといえば、今の方が確実に楽しい。変に気をつかう必要もないし、なんというか…穏やかだ。
潤くんは潤くんで、彼も当然モテるんだけど、恋愛に興味がないのか今のところ彼女を作る素振りはみせない。きっと、"自分"をしっかりと持っているからなんだろう。
…オレのように、誰かさんに当てつけるようなことはしない。
強い心を持つ幼馴染を、羨ましく思った。
「…なぁ、カズ。そろそろ電話でもしてやってくれない?」
「え?」
「うちのおじさん…わかりやすく落ち込んでるんだけど」
「……自分の元カノがオレと付き合ってたから?」
あの日、オレは智を突き放しすようにして帰ってきてしまった。
彼にとって、自分が…
その他大勢と同じ存在だったことにショックを受けたからだ。
そんなの、とうの昔に分かっていたはずなのにね。
どこかで…
自分はまだ、智にとっての特別なんだと思いたかったのかもしれない。
オレにとってのあなたは唯一無二の存在なのに。
智のあの手は、オレの…
オレだけのものであって欲しかった。
諦めきれなかった想いは
時を経て歪み 形を変え
少しでも彼に爪痕を残そうと、あなたへの言葉に棘を纏わせてしまった。
本当に…
あまりにも自分勝手だよね。
こんなオレ、あなたに好きになってもらえるはずないじゃない。
「…元カノとか知らないけどさ。
俺が言いたいのは、なんて言うのかな…
ふたりの間に誤解があるというか、ボタンがかけ違っているというか。
だから、お前ら互いにちゃんと話をしろよ」
「潤くんには分からないよ!」
潤くんは何も悪くない。
もちろん智だって。
…これは八つ当たりだ。
悪いのは…智への想いを、いつまでも引きずっているオレだよ。
「…違う、ごめんね。
うん…考えておくよ」
もう少しだけ、智への想いを整理する時間をちょうだい?
そうしたら、普通に…
笑って、あの人の隣に立てるようになるから。
オレは過去の思い出に縋るように
ギュッ と…手を握った。
そう決心したものの、もう何年もぐずぐずと燻り続けてきた想いは、そう簡単には消えなかった。
それでも智に連絡をしてみようかと
スマホの画面を開いては、そのまま閉じる日々が続いていた。
昼休み。
気分転換に外の風にでもあたろうかと、玄関ホールから特別室棟へと抜ける外廊下に足を向けた。
ふぅ と息を吐き出し、眩しい日差しに目を細める。
そこから中庭へと続く通路に差し掛かったところで聞き覚えのある声に気づいた。
「気持ちは嬉しいけど、ごめん。今は付き合うとかそういう気持ちにならないんだ」
そっと覗いてみれば、告白シーンの真っ最中。
同じクラスの女子と潤くんだった。
彼女は薄っすらと涙を浮かべながらも「わかった。でも友達ではいてくれる?」と気丈に振る舞っている。潤くんみたいに芯の強いかっこいい男に惚れる女子っていうのは、その子自身も潔くてかっこいいんだなと思った。
…それに引きかえオレは?
玉砕する覚悟もないくせに、恨みつらみだけは一人前。
ほんと…かっこ悪い。
(ふ、あはは…)
込み上げた乾いた笑いを飲み込むと
雲一つない、キレイに澄んだ空を見上げた。
つづく
miu