つづきです
にのちゃん視点…( ・∇・)
精力剤の棚の前で、何やら悩んでいる様子のお客さん。
普段は、そっちの機能が弱くなってきたおじさんが買い求めることが多いのだが。
フード付きの上着で顔を隠し、ご丁寧にマスクまで付けて完全防備の体制だ。
なんか話しかけるなオーラが出てるし笑
…服の感じからして、若い男性かな。それに立ち姿がとても綺麗。
誰かに頼まれてきたのだろうか?
それにしても、やけに真剣に選んでいるなぁ。
オレは、店の売り上げ向上♪という軽い気持ちで、彼の放っていた"話しかけるなオーラ"をぶった斬った。
「お兄さん、一番人気はこれだよ」
オレが声をかけると、驚いた様子でビクッと身動いだ。
若く、しっかりとした体つき。
それでいて、小動物のようにおどおどとしたアンバランスさに親しみを覚えた。
話してみると、どうやら自分のもののようだ。
若いのに、精力剤が欲しいって…
勃たなくて悩んでいるか、それともAV男優さんみたいな職業で、回数を重ねる必要があるとか?
何にせよ、自分にできるのは以前買ったおじさんの口コミ情報を伝えることくらいで。
一番人気だった商品を、お兄さんの手に乗せた。
それから数日後、見覚えのある姿を見つけた。
この間と同じ、精力剤の並ぶ棚の前だ。
同じものを購入するでなく、別の商品を選んでいるみたい。
ってことは、残念。効かなかったのか。
勧めた手前、ちょっと罪悪感を感じてしまう。
前回と違う商品の説明をしようとして…
オレの手に視線を落とすと、なにやらポケットをゴソゴソ。ポーチの様なものから絆創膏を取り出し渡してきた。
…あ、切れてる。さっき書類仕事をしていた時にちょっと痛いと思ったけれど。血が滲んでいるとは気づかなかった。
それにしても、絆創膏って。
ここ、ドラッグストアなんだけど。
売るほどあるんだけど。
……やだ。この人、面白い笑
それに…
立ち姿が綺麗だと思っていたけれど、声も好きだなぁ。少し低くて甘い声。
オレは、精力剤を求めてこの店に来る
顔もよく分からないお兄さんを
いつの間にか、楽しみに待つようになっていた。
彼の正体に気づいたのは、3度目の来店だった。
いつものようにフードを目深に被っていたのだが、それを被り直した際に見えた横顔。その力強い瞳に…
オレは既視感を感じ、振り返った。
…あ。
少し離れた斜め後方には、化粧品コーナーが。
ブランドごとにタレントやモデルを使ったポップが飾られている。
その中のひとつに、いま目の前で見た彼のものと同じ…視線を感じたからだ。
(まさかこんな所に?)と思いつつも、お兄さんを見つめる。
顔は隠しているものの…
やはり同じ人物のような気がする。
正直、モデルである彼のことは名前くらいしか知らないのだが…
この店を選び、足を運んでくれるということは、お兄さん自身の意思なのだと思い、いつも通り…ただの客として扱うことにした。
何度も来店するうちに、オレたちはすっかり気安くなっていた。
店員と客としては、少々距離感が近い気もしたが、お兄さんも楽しそうで。
相変わらず精力剤を買いに来るということは、そっちの方の問題は解決していないということなのだろう。
少しでも気晴らしになれば良いなぁ…なんて、今日も軽口をたたきながら、彼との会話ん楽しんでいた。
そんな日々が続くと思っていたのだが
お兄さん…
松本さんが、突然店に現れなくなった。
普通に考えれば、彼がずっと必要としていた物…精力剤が必要なくなったということなのだろう。
…そっか。
良かったじゃない。
そう思わなければいけないのに、胸の奥がギュッと痛くなる。
大体、モデルなんて忙しいのに、この店に度々来たりして。下手すれば顔バレするかもしれないのに、それでも通うって、相当必死だったのかもね。
であれば、病院に行ったのかも。
きちんと処方された薬ならば、その効き目は単なる精力剤とは訳が違う。
でも、それは…
…恋人のため、なんだろうね。
華やかな世界の人だもの、綺麗な彼女がいるんだろう。
オレは、胸の奥に広がった 鈍い痛みの理由に…
今更ながら気づいてしまった。
つづく
miu