ちょっと寄り道。
毎年、この曲でお話を書こうかと温め続け
タイミングを逃して…もう何年経ったのか。
数えることを諦めましたmiuです( ・∇・)
相葉くんハピバってことで…
どぞ。笑
「ケーキいかがですか?美味しいですよ」
赤、白、緑…
色とりどりのイルミネーションが煌めく駅前。
オレたちは赤いサンタクロースの衣装に身を包み、クリスマスケーキの定番ブッシュドノエルとイチゴの乗ったショートケーキの売り子をしていた。
「…寒っ」
二人の間を冷たい風が吹き抜けていく。我慢できず、オレはブルっと体を震わせた。
それを見たもうひとりのサンタクロースが、ごそごそとポケットから何かを取り出す。
「にの、これあげる」
「何よコレ。使いかけのカイロ?」
「まだ温かいから」
誰も要るなんて言ってないのに、相葉くんはオレのポケットに使い捨てカイロをねじ込んだ。
この人のこういうところ。
おせっかいで、絶対に自分だって寒いはずなのに他人を優先させるのよ。
…もう、好き。
ケーキ売れないねぇ とボヤく相葉くんに、オレは「大丈夫よ」と肩をすくめて見せた。
ケーキを売る手段はある。
ただ、これをすると、多分おそらく…あっという間に売れてしまうだろうから。
本当は、あまり使いたくなかったんだけど。
真っ赤なサンタクロースの衣装とセットで付けていたのは、真っ白な付け髭。
「////え、にの?!」
「良いから。ジッとしてて」
抱きつくようにして相葉くんの顔を半分以上隠していた付け髭を取り外すと、にっこりと笑った。
「ほら、お仕事♪」
「あ、うん。
クリスマスケーキいかがですか?美味しいケーキですよ」
まだ今日は12月23日。
クリスマスケーキの購入は、明日の方がメインだろう。それでも買っていくのは、何かの理由で 一日前倒しでクリスマスを祝う人か、それとも…
「あの、ケーキください!」
「私も」
「え?!ありがとうございます」
相葉くんが付け髭を外した途端、これまで素通りしていた人々が足を止め、人だかりが出来始める。
ほらね?
あなたのその100パーの笑顔は、人を惹きつけるのよ。
まぁ、特に…女子だけど。
少なめに用意されたケーキは、あっという間に売り切れ、オレたちは風邪を引く前に店へ戻ることができた。
駅の近くにある、カフェスペースを併設しているケーキ屋。
この店はオレの叔父が経営していて、高校生の頃から手伝いをしていたから、半年ほど前からバイトを始めた相葉くんよりも先輩。
一つ年下のオレがちょっぴり偉そうにしているのは、そんな理由だった。
「ご苦労さん。寒かっただろう」
「めたんこ寒いよ」
オレが大袈裟に震えると、叔父さん…
店長は、笑いながら温かいコーヒーを淹れてくれた。
「今日は早めに閉めて、明日のケーキの準備するから。それ飲んだら、ふたりとも上がっていいからな」
「はーい」
「お疲れ様です」
明日はクリスマスイブ。
ケーキの準備で、今夜は大変らしい。
叔父さんを含めたパティシエさんたちは、ここで長い夜を過ごすことになる。
オレたちバイト組は、作業の邪魔をしないように店を出た。
帰り道。
他愛ない話をしながら、ふたり並んで歩く。
時折吹く冷たい風が、相葉くんのミルクティー色の髪をふわりと揺らした。
彼女はいないって言っていた。
…趣味も合うし、ただのバイト仲間にしては仲良いと思う。
でも、それじゃ足りないの。
相葉くんとの距離をもう少し縮めたくて…
意を決して「クリスマスはどうするの? 」と聞いてみた。
「ん?クリスマスの日?特に…予定ないけど」
「だったらさ、あの…バイト終わったら、映画行かない?」
「うん!行こう!
あ…あのさ、にのに話したいことがあるんだ」
「なに?」
「うーん…その時に言うよ」
照れたように笑った相葉くんの瞳は、駅前のイルミネーションに負けないくらいキラキラと輝いていた。
つづく
miu