〜二宮の場合〜
お面で隠された顔。
きっと、オレが「知り合いに見られたら困らない?」って聞いた結果の行動なんだろう。
実際のところ、オレはメガネ外してるし、元々が地味で空気みたいな存在。
同じ学校のやつに見られたところで、誰だよお前で済む話。
でも、相葉くんは学校のアイドル的存在。
立ってるだけでも目立つほど。そんな人が男と手を繋いでるとか…
好きって言ってくれて、本当に嬉しいよ。
オレだってアナタが好き。
でも、相葉くんが無遠慮な好奇の視線に晒されるのはイヤなの。
だから…外では、人目につくことはしない方が良い。
そう思っての言葉だったのだけれど
相葉くんの発想は、オレの想像の数倍上をいっていた。
繋いでいた手を離せば済むことなのに、お面で顔を隠すって。
…そっち?
まぁ、確かにその手もある…けどさ。
でもね?陽が落ちて薄暗いし、足元が見えないのはちょっと危ない。
それに、アナタ今のこの季節を分かってる?
夏休みに入ったばかり。湿気たっぷりの真夏。
…どう考えても暑いよね?
普通にしてたって暑いのに、プラスチックで覆われた顔面には、更に熱が籠る。
あぁ、ほら。
首筋を汗が伝い落ちているじゃない。
浴衣の襟が汗を吸って、その色を一段濃く変えていた。
握られていた手をそっと外すと、自分の顔を隠していたお面を横にズラした。
相葉くんのお面も同じようにして、流れている汗をタオルで拭う。
「え…やっぱり手繋ぐの…嫌、だった?」
紅茶色の髪の下で、不安そうに瞳が揺れた。
「違うのよ。そうじゃなくてね」
オレは、少しだけ背伸びをして相葉くんの耳元に唇を近づけた。
「暑いし、オレ手汗がすごくて。だから…」
…ここ、握ってても良い?
と、手を繋ぐ代わりに、相葉くんの浴衣の袖を ツン と引いた。
花火が始まるまで、もう少し。
その間、所狭しと立ち並ぶ露店をめぐり、唐揚げ串とイカ焼きとたこ焼きで腹ごしらえをする。
デザートの冷やしパインを齧りながら、相葉くんが指差した。
「あ、にの!あれやらない?!」
冷静に考えれば買った方が安いし、そもそも要らないのだが。男子的にはなぜか血が騒いでしまう、謎のアイテムスーパーボール笑
狙いのキラキラボールをゲットする頃には、袖や裾に水が跳ね、オレたちの浴衣はしっとりと濡れていた。
つづく
miu