日曜日。
バスケ部の練習が昼過ぎで終わり、お気に入りのスイーツを買って家に帰った。
どさっとカバンを置き、ベッドの上に置きっぱなしだった読みかけのマンガを片付けて、時計を確認した。
シャワー浴びる時間あるよね?
オレ、絶対汗臭いもん。せっかく家ににのが来てくれるのに汗臭いまま会うとかあり得ない。
幸い、にのとの約束の時間まではまだ余裕がある。慌てて風呂場に駆け込んだ。
頭から熱いシャワーを浴びていると、洗面所に人影が。
父さんと母さんは出かけてるはずだけど…
あ、俊介かな?アイツも出かけるって言ってたけど予定が変わったのかも。
そうだ!冷蔵庫のプリンを食べないように言っておかなくちゃ!!
「俊介、冷蔵庫に入ってるプリン…」
カチャっと勢いよく扉を開けると
オレの目の前にいたのは、30分後に来るはずのにのだった。
「なんでにのが?!って…うわ、ごめんごめんごめん!!」
慌てて両手で前を隠す。
男同士。普段、体育の着替えなんか全然気にしないんだけど、何でだろう。
恥ずかしい…っていうよりも、ドキドキが止まらない。
にのも驚いたのか、すっかり固まって動かなかった。
「あれ、悪い。風呂入ってたんだ。
って…やっぱこの人、兄ちゃんの知り合い?」
「何でお前がにのを連れてくるんだよ!」
「いや、だってさ…」
俊介の話によると、家の前をウロウロしていたにのを見かけ、何の疑いもなくオレの友達だと思って声をかけたらしい。
で、びっくりしたにのが駆け出した所に運悪く段差があり、転んで手を擦りむいてしまった。
手当するからと家に招き入れ、擦りむいた傷口を洗い流そうと洗面所に来たところで現在に至る、と。
…ありがとう弟よ。
でも、最高にタイミングが悪かった泣
ひとまず傷口を洗い流し、洗面所を出たらオレの部屋に案内するように俊介にお願いした。
全速力で着替えて、救急箱を手に部屋へと急ぐ。
「あの…さっきはごめんね」
「ううん、別に…」
「手、見せて?」
親指の付け根に血が滲んでいる。
ティッシュで押さえ、大きめの絆創膏をペタリと貼った。
「弟がごめんね。急に声なんかかけたらびっくりするよね」
「いや…オレが早く着き過ぎちゃったの。
駅まで戻って時間を潰そうかなとか、家の前を行ったり来たりしてたから。普通に怪しいよね。ごめん」
ちょっと待って。何この可愛い生き物。
しゅん、と項垂れている姿がオレの庇護欲を掻き立て、抱きしめたくなる。
にのは悪くないよ。全然悪くない。むしろ、オレが30分前から家の前で待ってなかったのが悪い!!
にのの小さくて可愛い手に、痛々しい傷をつけてしまったことを猛烈に反省する。
痛いよね。冷やした方がいいかな?
…って、しまった。冷蔵庫のプリンの件、俊介に言わなきゃ。アイツ食い意地張ってるから食べちゃうよ。
ちょっと待っててね、とにのを残しバタバタと階段を降りる。キッチンのドアを開けると…
そこには、美味そうにプリンを食す
俊介の姿があった。
「あああああ!お前、何食ってるんだよ!!」
「え、一個はおれのじゃないの?」
「違うよっ!これはにのと食べようと思ってオレが買ってきたやつ!」
「だって、名前書いてなかったから…」
ウチでは、食べられたくないものには名前を書いておくシステム。逆を言えば、名前を書いてないものは食べられても文句を言わない。不可抗力。
それ以上は追求できず、ペットボトルのお茶と保冷剤、残ったプリンを持って自分の部屋に戻った。
つづく
miu