そして、教室に戻ったオレには
もう一つ重要なミッションが残されていた。
相葉くんの住所問題だ。
…本当は知ってるけど、オレが知ってちゃいけない訳で。
と言うのも、正規の手段で知り得た情報では無いからだ。そこに関しては、ヲタク道を極める前の若気の至りということで許してほしい。
以上のことから、相葉くんの家に行くためには、本人の口から直接住所を教えてもらわなくてはならないのだ。
タイムリミットは金曜日。
即ち、明日の放課後までということになる。
それを過ぎると、相葉くんと接触するのが極めて困難になってしまう。
どうやって聞き出そうか…
そもそも話しかけるだけでも畏れ多いのに、住所を聞くってハードルが高すぎる。
結局、この日は住所を聞く事が出来ずに一日が終わってしまった。
でも、まだ明日がある。頑張ろう。
帰ろうかと席を立つと、後ろからポンポンと肩を叩かれた。
「はい?」
無防備に振り向くと
むに、と ほっぺたに刺さる指先。
え、何。
このイタズラ…小学生のころに、一時期流行った気がする。膝カックンとかさ。令和の高校生でこれをやっている人見たことないんですけど。
でも、まんまと引っかかったオレを相葉くんが嬉しそうに眺めているから、まぁ良いか。
ああ今日も推しの笑顔が尊いです。
「くふふ、にののほっぺ柔らかいね」
「そりゃ、どうも。
……で?何ですか?」
あぁ、我ながらなんて可愛くない返事だろう。
ごめんなさい。
でも、顔筋を崩壊させないよう、何とか理性を保っているんです。
「にの、連絡先交換しよ?」
「……えっと……」
「オレ、皆んなみたいにインスタやってないんだ。SNS系苦手でさ。LINEでも良いかな?」
もちろんです。インスタはダメです。
インスタはオレのヲタ活の場でありますので、自作のアクスタやぬいなど、自慢の相葉くんグッズの映え写真で埋め尽くされております。
あ、でもあくまで自己満足ですので、自分しか見られないよう設定してあります。
どうかご心配なく。
「…連絡先って、オレと?」
「うん!だって日曜日オレんち来てくれるんでしょ?住所とか送るよ。駅からバスに乗るのが分かりやすいかな」
「いや、住所を教えてもらえれば行けるけど」
「交換したいの。ダメかな?」
「ダメ…じゃない」
「良かったぁ。じゃあ…はい!」
操作し、オレの手へと戻されたスマホには
"相葉雅紀”の名前が登録されていた。
相葉くんのプロフィール画面を見れば、四葉のクローバーが。
「じゃあ、オレ部活行くから。にの、また明日ね!!」
爽やかに去って行った相葉くんの背中を見送りながら
相葉くんのイメージカラーは緑にしよう、と
推し色を勝手に設定するのであった。
つづく
miu