あぁ。
どうしたら良いんだろう。
とりあえず、授業に集中…
って、無理。早く終わらないかなぁ。
常に隣に推しがいるなんてどんな状況よ。
もはや罰ゲーム。ドキドキバクバク。
……?
何となく気配を感じてこっそりと隣を見れば、相葉くんがオレを見つめてにっこり。
わわわ。緊張で体が固まる。
だめだ、見れない。
視線を誤魔化すこのお役立ちメガネを持ってしても相葉くんのキラキラアイドルオーラが眩しすぎる。圧倒。オレの左側半分だけ温度が3℃高いみたい。やばい汗ばんできた。
…待って、昨日オレ風呂入ったよな。
ワイシャツもちゃんと洗濯したのを着てきたし、臭くないはず。
え、でもこれから毎日隣ってことだよね。相葉くんに不快な思いをさせないように気をつけなきゃ。
毎朝ファブリーズして制服を消臭してこよう。携帯用も買った方がいいかな。あぁ…姉ちゃんのちょっと高くて良いシャンプーこっそり使っちゃおうかな?あれすごく良い匂いだし。でもバレたら姉ちゃんに半殺しにされるかも。うーん悩む。
匂い…
え、そう言えばこんなチャンスないよね。
相葉くんの匂いって。
これだけの至近距離なら少しは…
オレは鼻に全神経を集中した。
くんかくんかくんか
ぅわわわ!これは…柔軟剤の匂い。ソフランだ。うちと一緒!
やばい。嬉しい。
相葉くんと同じ柔軟剤使ってるなんて。母さんありがとう。帰ったら肩揉んであげる。
他には…
ふんがふんがふんが
ん?なんだろう、この香り。
ふんがふんがふんがふんがふんが
なんか、ちょっと甘い…香りがする。
香水じゃないよね。制汗スプレーとか?
先生が黒板に板書し始めたタイミングで、スッと伸びてきた手がオレの机の上に何かを置いた。
赤いイチゴ の描かれた小さな包み。
これは…キャンディ?
「…え」
「シーっ」
人差し指を口に当て、ナイショのポーズ。
あぁ、相葉君ってば何やってもかっこいい。
ばちんと片目をつぶったのはもしかしてウインク?相葉君はウインクが下手くそ、と相葉ノートに書いておこう♡
形の良い口が ぱくぱく と忙しく動く。
だ.い.じょ.う.ぶ?
大丈夫?って聞いてるの?
いちごの飴との関連性はわからないけど、うんうんと頷いた。本当はぜんぜん大丈夫じゃないけど。アナタにのぼせて鼻血 出そうだけど。
推しの言うことは全肯定というのがヲタクの習性。ここは大丈夫って言っておこう。
飴をもらったのは良いけど、もったいなくて食べられるはずもない。
ポケットにそっとしまう。
もう存在してるだけで拝むレベルなのに、推しからプレゼントをもらうなんて。
オレの人生素晴らしい。
上がりすぎたテンションをなんとか落ち着かせなきゃと、鳴ったチャイムと同時に教室を飛び出した。
ふふ
ふふふふふ…
この休み時間中ずっと
不気味な笑い声が、男子トイレに響くのであった。
つづく
miu