つづきです









「あれ?寝てなかったんだ」


「え、あ…うん…」



突然開いたドアに、慌てて振り返った。

考え事をしていたオレは、戻ってきた智の足音に気づかなかったらしい。

机に背を向けると、資料を隠すようにして

智に向き直った。



「もしかして、痛む?」



まだ濡れている頭をタオルでゴシゴシと拭きながら、心配そうにそっと腰に触れる。



「かなり無理させたよな。ごめん」


「何が?大丈夫よ」



本当は…

何度も何度も受け入れた場所が擦り切れたように熱を持ち、微かな痛みを放っていたのだけれど、平気なフリをした。

オレの言葉に安心したのか、智の表情が少し緩んだ。



「なら良かった。

あのさ、おれ…今日ちょっと出かけてきても良いかな?」


「そっか。オレもアパートに荷物を取りに戻ろうと思ってたから」



まだ全身の怠さは残っていたが…

そう言った方が、智も気兼ねなく出かけられるだろう。


にっこりと笑い、オレはカップに残っていたコーヒーを飲み干した。






ふたり一緒に家を出る。

バスに乗るのだと言う智と大通りで別れ、オレは駅へと向かった。





一週間ぶりの自分の部屋。


溜まっていた洗濯物は、結局…全部智が洗ってくれたから、着替えなんかは取りに戻らなくても良かったのだが。それでもネクタイくらいは別のものを持って行った方が良いかもしれない。


キシッ…

寝室のドアを開け、ベッドに躰を預けた。



見慣れた天井。



以前は、あの時の…


呪いのような言葉が重くのしかかり、息苦しささえ感じていた。


でも、今はそうではない。



「っ、いてて」



腰に響くのは、甘い痛み。 

愛された…証。


ベッド横の小さなサイドテーブルへと手を伸ばし、横着をして引き出しの中を手探りで探す。

元々、腰痛持ちなオレ。

ここには普段から湿布を常備していた。



「…あれ?」



手に触れたのは、湿布のパッケージにしては小さな箱。あまりにも無造作に手を突っ込んでしまったからか、目当てのものでは無かったらしい。

違うとは知りつつも、とりあえず掴んだ箱を引き上げると…



「あ…////」



使いかけのコンドームが、箱の中でガサっと音を立てた。


ゆっくり身体を起こし、引き出しの中を覗き込む。


そこには…

湿布の箱に隠れるようにして、潤滑剤のボトルも転がっていた。




手に取り、箱とボトルを見つめる。



……別に、使えない訳じゃないだろうけど。



「帰り、ドラッグストア寄ってく?」



誰もいない部屋の中、ボソッと呟いた。


気分的なものなのだろうけど…

智と使うなら、新しいものが良い。


使いかけのゴムとボトルをゴミ袋にまとめ、ギュッと封をした。





つづく





miu