つづきです
ん…
え、あれ?
目が覚めているのに、身体が動かない。
もしかして…これが金縛りってやつ?!
恐る恐る薄目を開けてみると、数センチの距離に智の顔があった。
そして、身体が動かなかった理由が明らかになる。
っ//////
智の腕がしっかりとオレを抱き寄せていて、動けなかっただけらしい。
とりあえずホッと息を吐き出し、時計を確認した。
今はまだ6時。智からはオレがここを出る時に起こして欲しいと頼まれている。
…起こすにはまだ早いよな。
オレはそっと…智の腕から抜け出した。
顔を洗って、なけなしの髭を剃る。
電気式のシェーバーは、チリチリと洗面所に頼りない音を響かせた。
鏡に映った自分の顔を眺める。
充分に睡眠をとったからか、いつもの青白い顔色ではなく、頬にはほんのりと赤みがさしていて色艶が良い。切った前髪の下では、充血しがちだった目も綺麗に澄んでいた。
勝手にコーヒーを淹れ、ぺたりと床に座った。
ふーふーと息を吹きかけながら、カップに口を近づける。
えーと…
会社には8時半までに着けば良いから、駅までの時間と電車の時間を逆算して。
7時半くらいにここを出る感じかな。
ズズッと啜ったコーヒーは、インスタントなのに
やけに美味くて。
オレは久しぶりに、爽やかな朝を満喫していた。
スーツに着替え、出勤の準備は整った。
あとは…
時計は7時25分。
そろそろ、智を起こさなきゃ。
気持ちよさそうに眠っているのを起こすのは少し気の毒だが、遅刻はよくない。受験生なら尚更だ。
「智、起きて」
声をかけたが、反応がない。
今度は肩を揺すりながら声をかける。
「ね、朝。学校」
んーと小さな声で返事?をしたが、目は閉じたまま。
……いや。この人、ひとり暮らしする前はどうやって起きてたのよ。
揺すっても、耳元でアラームを鳴らしても
智が目を覚ますことはなかった。
どうしよう…
気安く引き受けたけど、全然起きないじゃん。
そうこうしているうちに、時計は7時30分を過ぎ、自分がここを出る時間になってしまった。
ベッドですやすやと眠る智。
そういえば童話でこんなのなかった?
眠り姫…だっけ?
白雪姫もだけどさ、大概は王子さまのキスで目が覚めるんだよね。
って、そんなに簡単だったら苦労はしないわ。
冗談のつもりで…
智の唇に ほんの少しだけ口付けると
ピクリと指先が動いて
「…あ…和也、おはよ」
智が目を覚ました。