つづきです
部屋に忘れ物をしたからと相葉さんから連絡があり、歩いて15分ほどのバーまで小さな包みを届けに来た。
ドアを開けると、真面目な顔をした相葉さんが
真っ直ぐにオレを見つめていた。
「かず、話があるんだ」
「…どうしたの?急に」
いつになく真剣な眼差しに、オレも襟を正す。
…ここへ来て、もう半年が過ぎた。
相葉さんの人の良さに甘えて、あまりに長く迷惑をかけてしまったのは、自覚している。
そうだよね。
いくらなんでも、そろそろ出て行かないと。
そう思って顔を上げると、思ってもいなかった言葉が続いた。
「オレと…ずっと一緒にいてくれる?」
「え…それは、あの」
「かずが好きなんだ。恋人になって欲しい」
頭の中が真っ白になった。
だって、これまで相葉さんはそんな素振りを微塵も見せなかったから。
一緒にテレビを見ていても、このアイドルが可愛いとか、この女優さんキレイだとか…
一般的な男子が好きそうな話題ばかりで。
だから、まさか…
まさか、自分がそういう対象として見られていたなんてことは想像もしていなくて、困惑してしまった。
重い沈黙がふたりの間に流れる。
…どうしよう。
相葉さんはとても良い人だけど、でも。
オレは、着ていたシャツの裾を
ぎゅっ…と握った。
「ごめんなさい…オレ…」
多分、もう…
あの人以外を好きになる事はないと思う。
自分の気持ちを再確認すると同時に、相葉さんを傷つけてしまった罪悪感が胸に広がった。
こんなに優しい人なのに
オレなんかと関わった所為で…
申し訳なくて、俯いた。
「なーんてね。
……やっぱりオレじゃ、かずを笑わせること出来ないんだなぁ」
「?……ごめん」
「いや、謝らなくて良いんだよ。
あ…でもね?
もしオレが かずを笑顔に出来たら、その時は返す気は無かったんだ」
「返すって…何?相葉さん?」
「こんな笑顔、オレには見せてくれたこと無いもんね」
相葉さんの手には、使い込んだスケッチブックが握られていて
そこには、オレが描かれていた。
つづく
miu