ラスト










両手いっぱいの荷物がよほど重かったのか、まぁくんのシャツにはじっとりと汗が滲んでいる。

どうしたの?って聞いたら、買い物してきたって。それは見ればわかるけどさ。

こんなにたくさん買い物をするなら、車でこの荷物を運んでからレンタカーを返せば良かったのにね。

でも…なんだかまぁくんらしくて、笑ってしまった。



「暑っちー。ごめん、着替えていい?」


「うん、もちろん」



カッコよくて、優しくて

何をするにも一生懸命で…


そして、どこかちょっと残念なまぁくん笑


でもね。

そんなところが、大好きよ?


まぁくんに向けて、すっとカメラを構えると


着ていたシャツを躊躇なく脱ぎ

真っ白のTシャツに手を通した一瞬を逃さず

オレは、シャッターを切った。



カシャっ



「へ?」



地蔵のように固まるまぁくん。


…え、そんなに驚く?



「カメラマンが写真撮っても、不思議じゃないでしょ」


「だって…オレ今、絶対顔が油断してたし」



いきなりはずるいよって不満顔。

挙げ句の果てに、ちょっと待って。この間買ったばっかの良いシャツに着替えるから、もう一回なんて言い出す始末。



…分かってないなぁ。

いつものまぁくんが良いのよ。


着飾らない、素のアナタが一番素敵だから。



って…何言ってんの?オレ//////

自分のセリフがあまりにも恥ずかしくて、まぁくんの顔を見れない。ヤバい。

隣の部屋に逃げ込みベッドに飛び乗ると、オレは置かれていたシーツで顔を隠した。

うわうわうわ。

これ、耳まで赤くなっているやつだ。



「ニノ」


「……」


「ニノってば」


「……」


「ニノニノニーノ」


「……はい?」


「ね、シーツめくって良い?」



深呼吸すると熱くなっていた耳もなんとか落ち着いたから、少しだけ体を起こしてまぁくんの声のする方向に向いた。


顔を覆っていた、真っ白なシーツが

ゆっくりと上がっていく。


これって…


花嫁のヴェールみたい


そんなことを思ったら、急に胸の奥が熱くなった。



カシャ


「え?」



なんとなく…流れで、キスが来るとばかり思って期待していたのに。オレの目の前にはスマホを構えたまぁくんの姿が。

え、ちょっと。

オレのドキドキ返してよ。

…なんて、そんなオレを気にする様子もなく、まぁくんは上機嫌で。ねぇ見てよって見せられた写真は、被写体であるオレの顔なんて半分しか写ってなかった。


でも…うん。


撮る方も撮られる方も好きが溢れていて、すごく素敵な写真。自然と顔がにやける。



「あれ、なんかこれ…

花嫁のヴェールみたいじゃない?」



…え。

まぁくんの言葉に、ドキッと心臓が跳ねた。


オレ、口に出してないよね?

そっと見上げれて様子をうかがえば、そうではなさそう。まぁくんは自分で撮った写真を見ながら、嬉しそうに独り言を呟いていた。

ふふ。

同じ感性を持っていたことが…すごく嬉しい。


そして、それに続けられた言葉。



「オレ、自分でいうのも何だけど、すっごい運が良いんだよね。

一番はニノと出会えたことだけどさ?

これからも、いっぱい奇跡を引き起こす自信があるんだ。


ちょっと…

ほんのちょっとだけ、騒々しいかもしれないけど


オレと一緒の人生、絶対楽しいと思うよ」



ねぇ、アナタってどれだけミラクルを起こすの?

結婚式さながらにヴェールアップして、こんなセリフを言われたら。


そしたら…


もう、誓うしかないじゃん。



よろしくお願いします と



そっとキスをした。








おわり







miu