つづきです









「ニノ、大丈夫か?」


潤くんから伸ばされた手を、躊躇いながらも…
ギュッと握り返した。
よろよろと立ち上がる。


「…うん…ごめんね」

「お前が謝る必要ないだろ。あいつ…先輩とは言え最低だな」


入社早々、こんな事…

でも、もしかしたら
自分に隙があったのかもしれない

悔しくて…唇を噛みしめた。


「あの人、二次会の場所をしつこく聞いてきてさ。なんか…嫌な予感はしてたんだよ。
もっと早く気付けば…ごめんな」


潤くんは何も悪くない。謝らないでよ。
でも…オレはともかく、潤くんが目をつけられたらどうしよう。
オレのせいで、迷惑が…

爪が食い込むくらい ギュッと握った拳に
ポタリと滴が落ちた。


「あのさ…この事、ちゃんと報告した方がいいと思うんだ。この先も、同じような事してくるかもしれない」


潤くんの言葉はもっともだけど…
ううん、と オレは首を横に振った。


「だって、相手は先輩だし…」


オレみたいな新入社員が何言ったって、誰も聞いてくれない。
諦めにも似た感情を、胸の奥に押し込めた。


「俺の大学の先輩が、人事にいるんだ。
その人なら、ちゃんと話を聞いてくれるよ。すっげー信頼できるから…な?」

「……うん。ありがと」


頭を撫でる大きな手が、あんまりにも温かくて…

流れ落ちる涙が止まらなかった。







数日後、オレは人事課から呼び出された。
緊張して面談室に入ると、潤くんと…もう一人の姿が。

どうぞ 座って、と 目の前の椅子を示され、腰掛けた。


「…あの、」

「あ、ごめんね。人事の大野です。よろしく。
…松本から話は聞いたよ」


オレはペコリと頭を下げた。


「今回の件。
一応、本人にも確認したんだけど…否定したよ」

「でも、大野さん!俺が証人だよ!!」

「……」


声を荒らげた潤くんを視線で制し、大野さんは続けた。


「…きちんと調査した上で処分をするから、もう少し待ってくれ。
それと…
二宮くんは、営業課に配属する予定だったんだけど、総務に変更させてもらう」

「な…ニノは被害者だよ?どうして…」

「あいつも営業課なんだ。
たとえ一時でも、同じ課にいたくはないだろう?」



それはオレを気遣う…

とても、優しい瞳だった。





つづく


miu