つづきです
ふわり
澄んだ香りに包まれ
抱きしめられる背中。
相葉さんの腕の中は…
とても温かかった。
「雅紀…?え、何で…どうして?」
「…翔ちゃん、また何か…難しく考えてるの?」
ピン…と張り詰めていた糸が、相葉さんの一言で緩んだ。
空気が柔らかく動く。
「………」
固く握られた兄さんの手に
ぽたりと雫が落ちた。
物心ついた頃から聡明で、絶対的に正しかった。
そんな…弱みなど見せたことのなかった兄が、オレの目の前で弱々しく泣いていることが信じられなくて。
戸惑っているオレとは対照的に、相葉さんは気にする様子も無く兄さんへ手を伸ばす。
兄さんの震えている指先をオレへ導くと、自分はそっと立ち上がり…
オレと兄さんから少し距離を置いた。
絞り出すように言葉を紡ぎ始める兄さん。
「…かず…ごめん。
俺、お前から逃げてた…」
「…っ」
ふるふると頭を横に振る。
違う。悪いのはオレなんだよ。兄さんが謝るなんて…
返す言葉が見つからない。
(また何か…難しく考えてるの?)
…さっきの、相葉さんの言葉が
オレをも包み込む。
顔を上げ…兄さんを見つめた。
…あぁ
高ぶっていた感情が
次第に落ち着いていくのが分かる。
凪いだ海のように、静かだ。
「…ね」
「うん?」
「夏休みとかさ…帰ってきなよ」
「…そうだな。今年は帰るよ」
「じゃ、相葉さんも一緒にね」
「かず…?」
「兄さん、めちゃめちゃお世話になってるみたいだし。それに…」
大切な人だよね?と、耳打ちした。
つづく
miu
