つづきです
ブブ…
震えたスマホの画面。
表示された名前に、固まった。でもすぐに通話のマークに触れる。
聞こえてきたのは…
『…もしもし、かず?お前どこにいるんだ?』
「え、アパートにいるけど」
『アパートって。
そんな、風邪ひくと大変だから、どこか…駅まで戻ってマックでも入ってろよ!』
「いや、腹いっぱいだし、べつに寒くないよ。兄さんが帰ってくるまでここで待ってるから」
『じゃ、じゃあ、もう少ししたら帰れるから待ってろ』
プツっと一方的に通話が切れた。相葉さんと二人顔を見合わせる。
「めっちゃ慌ててたね」
「オレ高3だよ?…過保護じゃない?」
「翔ちゃん優しいから」
……うん。
それは、知ってる。
とても嬉しそうな顔をして そう言うから。
兄さんが帰ってくる前に聞いてしまおうかと
オレは、相葉さんに向き直った。
「ねぇ、相葉さん」
「うん?」
「兄さんのどこが好きなの?優しいとこ?」
一瞬、揺らいだ瞳。
ゆっくりと瞬きすると、すぐに立て直した。
「…うん、良い先輩だよ。優しいし面倒見いいし、すげー頼りにしてる」
それは " 弟 " に対する模範的な回答。
…そうだよね。
隠さないといけない恋って、そういうもんなんだ。
でもそれって悲しくない?
辛くない?
そんな オレの頭に浮かんでいたのは
不機嫌そうな顔をした、あの人だった。
つづく
miu