続きです










息が…苦しい。


「ハア…ぁ、」


呼吸の仕方を忘れたのかな。

それとも…
生きることを拒絶しようとしているのだろうか?


ぐにゃりと視界が歪み
ズキズキと…頭がひどく痛んだ。

次第に意識が遠のき、膝から崩れ落ちる。

無力な 自身の手に
乾いた笑いが込み上げていた。


「……よ………聞…て……」


うるさい。

うるさいよ、うるさい。


耳障りな雑音が部屋に響く。
視線を向けると、大野さんが心配そうに オレの顔を覗き込んでいた。


「…大丈夫か?」


…よくそんな事を言えるな。
カッと頭に血が上ってしまった。胸ぐらを掴んで引き倒し、大野さんの上に馬乗りになった。


「…何でっ!!何で…」


振り上げた拳を握りしめ

それでも…
彼を傷つけることは
ニノが 望まないだろう  と

大野さんの顔の横へ 叩きつけた。


ガッ

床へと落とした手は、鈍い痛みを放つ。

渦巻く感情…

消え去りたい想いとは裏腹に、自分が生きていることを実感させられる。

噛み締めた唇からは血が滲み
鉄の味がしていた。


ニノ…ニノ、ニノ!!

ぼろぼろと溢れ続ける涙が、大野さんの髪を濡らす。


「…ねぇ、オレも消してよ…
今すぐ、ニノを追いかけるから!!」

「なぁ…あんたは自分の時間を生きるんだよ」

「なんで…好きな人と一緒にいたいって、そんなにいけないことなの?!
大野さんが消してくれないなら、自分で…」

「おい、落ち着け!」


冷やりとした手に掴まれ、体勢を崩す。
倒れ込んだオレを、起き上がった大野さんが見下ろした。爪が食い込むほど握った拳を 無理にこじ開けられる。

感じた 小さな重みに、顔を上げた。


「…何だよ、これ」


爪の痕が残る手のひらには、琥珀色の石が乗せられていた。
見覚えのある、綺麗な色。


「封印…っていうのかな。
この中に ニノはいるから。本人に成仏する意思がなくて、それでも消したくないのなら、後は…眠らせるしかないだろ」

「うそだ。こんな中に…ニノが居る訳ない」

「信じないなら、それまでだ。
あ、言っておくが…自殺なんてしたら、ニノとはもう二度と会えないからな」


ぽん と 肩に手を置かれ

やがて
静かにドアの閉まる音がした。





つづく


miu