つづきです。
上着の襟元を抑え、灰皿のある場所へと向かった。
春先とはいえ、まだ風は冷たい。
…やっぱり一本だけ吸ったら、中に戻ろう。
先客にぺこりと頭を下げて、固まった。
「どうも」
「へ? …あれ?!」
座れば? と
咥えタバコの白雪姫が、狭いベンチの半スペースを空けてくれた。
「大野さん、吸うんだ?」
「…普段あんま吸わないんだけど…たまにね」
「オレもやめられないんだよなぁ」
どうぞ、と 火を貸してくれた。
「大野さんさ、仕事かなんかで免許取りに来たの?」
「え? いや…海に行きたくて」
「…は?」
「船の免許、あるんだけど。電車乗って行くの面倒くさくて…」
「車より船が先?! カッコいいなぁ」
「あの…クルーザーとか、そういうカッコいいのじゃないよ?おれが乗るの漁船だから」
「………そうなの?」
あーでも、っぽいわ と
目を細めて笑った。
「あ、今度乗る?」
「船? …いや、やめとく」
勢いで言ってしまったが、すぐに後悔した。そうだよな。友達ですら無い おれと一緒になんて、行く訳ない。
タバコを灰皿に押し付け、まだ少し残っていた火を消した。
白く細い煙が 空に昇る…
この場から逃げようと 立ち上がった。
「船、酔っちゃうんだよね。
でも、海までなら行っても良いよ?」
「………ほぇ?」
「え? 誘われたんじゃ無いの?オレ」
「…誘った、よな」
「何だよ それ」
クククッ と
肩を揺らす二宮教官の頬は、白くなくて
ほんのりとピンク色をしていた。
つづく
miu