つづきです。











健康的な 日に焼けた肌
茶色い髪に隠れた、黒く丸い瞳
スラリと長い手足


「相…「なぁ相葉、今日カラオケ行こうぜ」

「そうだな、行く?行っちゃう?!」


弾けるような笑顔は
昔とちっとも変わらないのに

オレの知らない相手と肩を組み
高校生活を楽しんでいた。


…改めて 自分の姿に目を向ける。

小さな身体…
身長は、3年前から比べ 3センチほど伸びただろうか。体重にいたってはほぼ変わっていない。

外に出ることが極端に少なかった所為か、気持ち悪いほど 青白い肌。筋肉の無い 痩せ細った手足は、まるで 虫のようだ。

自分だけ時間が止まっていることに気付き、泣きたくなるほど後悔した。


…オレ、何で会いに来ちゃったんだろう。

道路の向こう側を通りすぎて行く 相葉くんに気付かれないよう、そっと…その場から立ち去った。



駅へ向かうバス。


一番後ろに座り、外をぼーっと眺めていた。

四角く縁取られた 窓から見えるのは、すっかり変わってしまった街並みだった。
オレの居なかった間に、毎日のように通っていた駄菓子屋は、駐車場に変わっていた。


「変わらないもなんてさ、無いんだよ…」


そう呟いたオレの目に飛び込んで来たのは、交差点の先の大きなクスノキだった。
慌てて 手元のボタンを押す。

バスはスピードを落とし
やがて、止まった。


「すいません!!」


少し混み合っていた車内を、人を かき分けるようにして降りる。

背中に何か…
視線を感じたような気がしたが、振り返る余裕はなかった。


相葉くんの家にほど近い、大きなクスノキのある公園。ここは、オレたちの想い出がたくさん詰まった場所だった。

陽が傾くまで一緒に遊び

家に帰るオレの背中が見えなくなるまで
ずっと手を振り続けてくれた。


…引っ越す前
再会の約束をしたのも、この公園。


あの頃は、こんな感情を抱えることになる なんて、思いもしなかった。

相葉くんの隣に自分がいない事実。

そんな当たり前のことに
こんなにも…心が痛むなんて。

涙でボヤけた視界の奥で

もう 帰る場所は ここにはないんだと
自分自身に言い聞かせていた。



あの日と同じ 茜色の空なのに

この手には もう…
何も残っていなかった。






つづく




miu