つづきです。












文句、か…

……恨みつらみを語ったら、一晩じゃ足りないよ。三日三晩かかったところで、とても 語り尽くせないだろう。


だから、それはもう…いい。


「結局…似てんだよなぁ」

視線を 祭壇に向けた。


目的の為なら 手段を選ばないとか
計算高く、先の先を読むとか

意図した訳じゃ無いけど
結果…やってること 同じなんだもん。


何を残し 

何を切り捨てるか

…この 手のひらに 残したかったものは
互いに違ったけど ね。


こんなところで 親子を感じるとか、ホント笑っちゃうわ。


「んふふ…
顔は あんま似てないけど、意外と不器用なとことか、頑固なところとか…似てるかも」

「本当に…迷惑な話ですね」

「あと、ここ…な?」


??  何?

智さんは、写真を指差し
自分のアゴをちょん、とさわった。

膝に肘を置き
祭壇の写真を ジッと 眺める。


「あ…」


静かに微笑んでいる その遺影には
アゴのあたりに、小さなホクロが あった。
オレより かなり小さく目立たないが、同じ位置に…

今まで ずっと、気付かなかった。


そっと、アゴに触れる。



「ねぇ、母さんのこと…少しは…愛してた?」


ポツリ と 言葉が、こぼれ落ちた。


「…幸せって、何だろうね」
「あなたの幸せは、どこにあったの?」
「見事、勝ち取った栄誉? それとも人の上に立つ優越感?」
「金と名声を 手に入れて、それで…」


「それで… 父さんは、幸せだった?」


返ってくるのことのない質問。

涙が頬を伝っていた。


智さんは…オレの手に 自分の手を重ね
終始無言で、優しくオレを見つめている。


オレは…

弱くて脆い 
素の自分を さらけ出し

一緒に

泣いて  

笑って


疲れて 立ち止まった時には
足を止めて、寄り添ってくれる


そんな人と
ともに、同じ時を刻みたい。


この人の…
智さんの他は 何もいらないから。


重ねられた手を、キュッと握り返した。



「オレ、幸せに なれるかな」

「…大丈夫だよ。
だって…もう、神さまに誓ったもん」

「智さん…幸せに、してくれるの?」

「なるんだよ、ふたりで」


温かいものが込み上げ
ゆっくりと、オレの 心を満たしていた。





つづく





miu