にのあいのお話です。
軽くBL含みますので、ご注意ください。










一体、何があったのか。

こんなにも…不安定なカズちゃんは 
今まで 見たことがなかった。

とにかく、このままじゃ風邪ひいちゃう…


目に入った、柱の時計

オレが入ってから 既に2時間が経っていた。
…多分、ぬるくなってる。
沸かし直さないとダメだな。


「お風呂、温めて来るから チョット待ってて」

立ち上がろうとした オレへと伸ばされた
縋るような手

濡れた 瞳が 揺れる…

離れないで、と懇願する姿は 

愛おしくて
でも…儚くて

手を離したら 
消えてしまいそうで怖かった。


指を絡ませ、しっかりと繋ぎ止める。

この頃には、暗闇の中…目も慣れていて

時折 窓の外を通る 車の明かりや、豆電球の明かりで、充分に部屋の中の様子が窺える。


一糸纏わぬ姿で
震える カズちゃんは…

薄明かりの下で、オレの欲情を煽るから

手元のパーカーを羽織らせ
その 欲情の芽を隠した。


落ち着け…オレ

肩を抱きかかえ、風呂場へと向かう。
洗面所の明かりをつけ、追い炊きのスイッチを入れると、改めて…カズちゃんの姿に目を奪われた。

震える唇
艶やかな白い肌

雨に濡れた黒髪は 
誘うような色香さえ 漂わせて…

…ゆらり

少しでも気を抜くと、今にも淫靡な夢に堕ちそうになる

そんな弱い自分が 口惜しかった。



「…まーくんと 離れたくない。
我儘でも、何でも…もう無理。もうこれ以上待てない。
行くなら、フって?
それで 全部終わりにしよう…」


ギュッとしがみついた カズちゃんの口から漏れた言葉に、頭が真っ白になる。

何?!  離れる…え?
誰が? 誰と?!

…それって、まさか…オレたち?


「待って?!
何だよそれ。離れるって…どういう事? 」



…やっと、全てが繋がった。

カズちゃんを苦しめていた原因…
勘違いだけど…でも それは、オレの所為だ。

ゴメンね  
酷く胸が締め付けられると同時に、カズちゃんが こんなにも オレを想ってくれていた事が、不謹慎だけど…嬉しくて。

ニヤける その表情を
オレは  隠す事が できなかった。


突然の、独り立ちの打診
真っ先に浮かんだのは…カズちゃんだった。

我儘なオレを待っててくれた
大好きな人

カズちゃんの 大切な店と、尊敬する師匠


…ここを離れるなんて、夢にも思ってもなかった。

だけど

自分の力を試してみたい
そんな気持ちが 無いかと言ったら 嘘になる。


そんなオレを 見透かすように、大将は言葉を続けた。


「この店は、まだ…お前に渡すわけにいかねぇからな。そんなの、100年早いわ。
…先ずは、自分の足で立ってみろ。
ここをお前に任せるかどうか…話はそれからだ」


大きな手に  
背中を押された気がした。




つづく



miu