翔さんの回想シーンです。
【side 翔】
ニノが 店を出て行った事を確認して
俺は、ゆっくりと 大野さんに 向き直った。
「 …高校を卒業する 少し前。
この頃には…俺、ニノに惹かれてるのを自覚してたんだ。
でもさ、それを認めたく無い自分が居たのも事実で…。それで 言い寄ってきた他校の女の子と付き合い始めた。
この時は まだ…戻れると思ってたから。
でも ニノに 笑顔で『翔さん、おめでとう!』って…そう言われて。
絶望的に 泣きたくなったのを覚えてる。
卒業して、暫くたった あの日。
借りたままになっていた CDを見つけて
返そうと…久しぶりにニノの家に行ったんだ。
玄関の鍵は かかってなかったから、いつも通り 勝手に部屋に入った。
そうしたら…
ベットで気持ち良さそうに眠ってる ニノを見て
何かが…俺の中で弾けたんだ。
フラフラと 吸い寄せられるように近寄って…気付いたら ニノの唇に…自分の唇を重ねてた。
自分に驚いて 部屋を飛び出したんだけど
カズヒコに 玄関で腕を掴まれて、あいつの部屋に引っ張りこまれて…
ニノと…同じ顔で『好きだよ』って…言ってくれた。
壁一枚隔てた向こう側には
ニノが…好きなヤツが居るのに。
近づく唇を 避けようともしなかった。
一度 弾けて、外に出てしまった想いは もう…止まらなくて。
俺は ニノを想いながら…
カズヒコと寝たんだ 」
大野さんは腕組みをしたまま
険しい表情を崩さず
静かに 聞いていた。
「 それから、何度か逢ってるうちに…カズヒコが 俺じゃない、別の影を見ている事に気付いたよ。
お互いに 傷口を舐め合い
寄り添い合う。
叶わない恋を追うもの同士の
同情で 成り立つ関係。
…でも、それもアリなのかな?って
その時は そう思ってた。
でもさ、しばらくして 俺達の事がニノに バレたんだ。
あいつ…カズヒコは
『 大事なモノは…全部 オレの手から溢れて行っちゃう 』って。
泣きながら
絞り出すように…言ったんだ。
ああ この目に映ってたのは
ニノだったんだ って
この時になって…漸く気付いた。
別の影じゃない。
俺たちは 同じ影を
追いかけていたんだって。
そう思ったら もう…カズヒコにニノを重ねる事は出来なくて。
目の前のカズヒコが…愛おしいと
そう思ったんだ 」
「 …始まりは分かったよ。
んで、今は?アンタらの関係は…どうなんだよ」
「もう、それからは ずっと…
俺はカズヒコを愛してる。
カズヒコは、求めても 受け入れてもらえない寂しさを埋める為に 俺の所に来るんだ。
どんなに俺が『カズヒコを愛してる』って言っても…
あいつの耳には 届かない。
あんな形で 始まった 俺達だったから…」
「めちゃくちゃ頭良いのに…不器用だな。あんたも、カズヒコも。
…で? どうすんだよ。
このまま 諦めんのか?」
「どんな形であれ、あいつが俺を求めてくれるのであれば…今のままでも良いと思ってた。
でも、止めた。…諦めないよ。
さっきの、大野さんに向けた ニノの表情を見て、俺…正直 悔しかったんだ。
俺はカズヒコに、あんな幸せそうな顔をさせてやれなかったから 」
「そうか…うん。
あんたなら出来るよ。…そんな気がする」
「今日はありがとう。会えて良かった 」
「…おう、頑張れよ 」
大野さんから差し出された拳に
コツン、と合わせた。
つづく
2015.10.5 miu