お隣さん 大宮編ラストです。







旅立ちの日



ワタシも この人も

もう…
互いの 気持ちを隠す必要はなかった。


絡ませるように 手を繋ぎ

アナタの肩に 頭を預けて  
寄り添いながら…

その時が訪れるのを
ただ 静かに 受け入れる。






「智?  そろそろ…行かないと」

「にの…待っててくれる?」

「…?   何を、ですか?」

「ここに 帰ってくるから。
…にの の所に、さ。

帰ってきたら  今度こそ ずっと一緒にいよう?」

「………いいんですか?
そんな事 言ったら、ワタシ ずっと…待ちますよ?」


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んふふっ、と
智は 嬉しそうに  微笑んで


「ゴメン、何も持ってなくて…」


そう言って ワタシの手を取り

左手の薬指に  そっと…口付けた。



急激に熱をもった 耳は  
赤く染まり

照れ臭くて…でも  嬉しくて

思わず  笑みが こぼれた。





見送りは いいから  と
玄関先で  別れる。


ドアノブに手を掛けた所で
智が  ポツリ、と呟いた。


「この絵…まだ出来上がってないから、ここに 置いといて いい?」

「え?  
…出来てるんじゃないんですか?」




絵と ワタシを交互に 眺めて


「…全然 納得いかない。にのは もっと…」

「もっと、何です?」

「…言葉じゃ言えねぇよ」


むぅっと、 口を尖らせている。


「何よ、ソレ!
まぁ…邪魔ですけど  しょうがないですね。自分の顔を 捨てるワケにもいかないでしょ?
預かっておきますから…
だから…帰ってきて、下さいよ?」

「にのが やだって 言っても…帰ってくるから」


ワタシ達は、顔を見合わせて 笑った。








今日も また

どんよりと した  
薄暗い 空を見上げる。

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以前のワタシ は
この…鈍色をした 空の色を

自身に 映す ことしか 
出来ずにいた。



ね、智?

アナタに出会えて なかったら…

ワタシは  こんなにも 穏やかに
この 空を 見上げることは 
出来なかった。



今…

アナタを 想う
ワタシの なか は

澱みなく  澄んで いる。



この空の

ずっと 先には…


間違いなく  アナタ がいる。


繋がって いるから。


あの、約束があるから…


大丈夫ですよ?





ワタシは、アナタへの想いを胸に

歩き出した。







終わり





2015.4.22  miu