大宮さんのお話です。









side:N



それから

道路工事の バイトと
…絵のモデル。


ずっと ワタシの部屋で  描いているから

大野さんとは  ほぼ…
同じ空間で 日々過ごしていた。


絵の方は
なかなか筆が進まない様子で…

描いては 消して を繰り返し

少しずつ…
色を塗り重ねて いくものの

どうも 納得がいかないらしく

さっきも  難しい顔をして 
フラッと  外へ出て行った。


ワタシには 絵のことなんて 
解からないけど…


大野さんが 描いた
ワタシの 絵を…眺めてみる。

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そこに描かれた ワタシは

優しい 表情で 
静かに 微笑んで いた。


だけど  どこか 物憂げで
微笑みの下に 

…寂しさを 隠している


そんな、顔。



ふふっ… なんだ…

今のワタシ 
そのまんま、じゃないですか。

涙が、頬を 伝った。


もう…この 絵も 
描き終わって いるんでしょうね。


そして  鞄に 入っていた
パスポート。


アナタとふたり

薄っぺらい  布団に 
朝まで  くるまりながら…

交わした言葉が  耳元で蘇る。


『金が貯まると、いろんな所に 絵を描きに行くんだ。
今度、外国にも 行ってみようと 思ってて…』



アナタは…
行くんですよね。


寂しくて  哀しくて
…苦しくて。


それなのに

笑ってしまう くらい…
アナタの 事が 好きで。


古ぼけた 窓から見える  街並みに
明かりが 灯り始め

薄暗かった景色は
徐々に 光彩を 帯びてゆく。


そっと 目を閉じて  アナタを想う。

…笑って  送り出そう。




スマホの  連絡先画面を 表示し…
潤の 番号を  タップ した。







カチャッ…

ドアが開く 音がする。



「何…難しい顔  してるんです?」

「……にの  」

「この絵も、もう…出来上がりです、よね」



不意に

仕舞った筈の …
ワタシの奥に  灯った 光が
漏れ出して  

薄く…影を落とした。



つづく


2015.4.14   miu