side: A


翌日。


オレたちは、吉田のじいちゃんが所有する隣県の別荘へと 来ていた。


平屋の古い建物。

でも…昔ながらの造りで
しっかりとした建物だった。


釣り好きなじいちゃん。
2~3年前までは 此処に頻繁に来ていたみたい。

でも、寄る年波には勝てず
最近では 足を運ぶ事は殆ど無くなっていた。

かといって 大切な場所を手放す気にもなれず、ここを管理する人間を探していたらしい。


昨日  翔ちゃんは、じいちゃんから 鍵を借り…ここでの生活が 出来るように 整えてくれていた。


掃除は…

まぁ、オレがやるけど。笑


さほど多くはない荷物を
部屋に運び入れ  

窓を開けた。

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目の前に広がる 

圧倒的な… 青。


どこまでも続く水平線と

天空へと抜ける
澄んだ 空とのコントラスト。 


押し寄せる波の音に包まれて…
オレは 暫く動けないでいた。


風と共に 入り込む 
潮の香りに鼻腔をくすぐられ

現実に引き戻される。


まだ肌寒い 潮風が
ニノの 身体に障っては、と

ゆっくりと 窓を閉めた。



「…雅紀…」

翔ちゃんが 耳元で
ボソッと囁く。

その言葉に

オレは…
泣きそうになってしまった。


慌てて 涙を拭う。


「…ねぇ、相葉さん、やっぱり…ワタシ 一人で…」

「ダーメ! 
ニノにも 家事、協力してもらうよ?
二人で のんびり やって行こうね」


ここなら…
落ち着けるかな。


大野さんの 気配を絶って

会社の…事も

ニノの心を 煩わせるモノ
全てを 遠ざけて

…今はただ 静かに

時が流れていくのを 見守ろう。



本当は オレ…ここに来るまで

ニノを支えられるのか
不安だったんだ。


だけど、翔ちゃんの言葉に
心が スッと…軽くなった。


『もしも 支えきれずに
倒れそうになったら。

その時は … ニノ に寄り添って  
一緒に 横になれば良い。

大丈夫。俺も 居るから』




うん、ニノも オレも…
独りじゃない。

必要だと 思ってくれる人がいる。

共に寄り添ってくれる 
大切な人がいる。



…大丈夫。

オレは 顔を上げた。





つづく



miu