翌日、俺たちは
再び 吉田のジイさんの家を訪れていた。

「なに…直ぐ、そこだ」

案内された アパートは、ジイさんの家の裏手に建っていた。

台風でも来たら 壊れそうな…

そんな、お世辞にも キレイとは言えない 古びた 建物だった。


それでも それは
この街の風景に とても馴染んでいて

”此処にあるべき物”

…そんな 風格さえ感じさせた。


ギシギシと 音を立てる、錆びた階段を上がった2階の 角部屋。


長い間 使われていなかったのか
少し ホコリ臭くて、窓を開ける。

この 開けた窓は…
果たしてキチンと閉まるのか?と、心配になるほど歪んでいたけれど

建物の外観から想像していたよりも
部屋の中は 丁寧に 手入れがされていた。


足を降ろした 畳は新しい物の様で、青い イグサの匂いが…何だか心地よい。

部屋のあちこちから、動く度に多少 軋む音がするけれど…

それすら、新しい住人を歓迎する
祝いの言葉のようだった。


「…うん、気に入った」

「!!   翔ちゃんも?
くふふっ!なんか、ココって…じいちゃんみたいだよね?」

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ゴロっと 寝っ転がった雅紀は
畳の匂いを 楽しんでいる。


「ワシか??…何じゃ、それは」

「うん?
一見  頑固で、恐そうだけど。
でも…じいちゃんは さ、本当は スゴく優しくて、あったかいじゃない?
外見と中身、かなり違うんだもん」

「…お前さんの言うことは…よく分からんな」


ジイさんは  照れたように 窓の外に視線を逸らす。

あぁ…やっぱり こんなジイさんですら、雅紀には 敵わないんだな。

そう思ったら 笑いが込み上げてきた。


「…ククッ、要するに…好きって事ですよ。そこは 俺も…同意見かな?
大家さん、これから お世話になります」

「ね、じいちゃん。この窓 直して良い?」

「この部屋は、お前さん達で好きに使え。いじっても構わん」

「あ、他にも力仕事があっあら、オレに言ってね!
翔ちゃんは こう見えて…力仕事向いてないから」

「…頭脳派って言ってくれよ」

「力仕事と…根性が必要な時は、雅紀に言うとしよう。
ところで…お前さん達は兄弟なのか?」


「………」


兄弟か…と問われて
一瞬 雅紀(まさのり)の事が 頭を過ぎった。

雅紀(まさき)は これから  生涯をかけて 守り、共に 生きる…大切な人。

夫婦、とは 言えないか。

だけど 恋人という呼び方も、今の俺たちには  陳腐に思えてくる。

何とも言えず、言い淀んでいると


「そう!兄弟!似てないかなぁ…」

横から 雅紀が口を挟んだ。


「じいちゃん、おれたち…名字も違うんだけど、その辺は 事情があってね?」

「…まぁ、如何でもいいわ。
鍵は 置いておくから、今日から使え」

「じいちゃん、ありがとう!
あ、後でそっちに行くね!」

バタン、どドアが閉まり
室内に静寂が訪れる。


「…怒った?
兄弟とか、勝手に言っちゃって」

「ん?いや…あそこはアレが正解だよな。
俺さ、真面目に考えちゃって…」

「くふふっ…ありがとう。
でもさ、家族で 良いんじゃない?
兄弟だって、夫婦だって家族だし。
大切な…家族」

「…そうか、そうだな…」

雅紀の頬に 手を伸ばし
そっと…引き寄せる。

唇を重ねながら
これまでの事を 思い出していた。


家族を喪い  独りになって
そして…今また家族が出来た。

やっと 手に入れた
雅紀との 穏やかな 日々。

どうか

この幸せが 
ずっと…続きますように。

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終わり

*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*

櫻葉さんの お話、終了です。

長々とお付き合い下さいまして、ありがとうございました。
m(_ _)m

これから数年後?に、ニノちゃんがこのアパートに引っ越してくるんですな。

…あれ?
なんだか 翔さんのキャラが違うじゃない?!
(((( ;°Д°))))しまった…。まぁ、私の書く話だから。所詮ツメが甘い。笑

こちらのお部屋、この先どう使うか分かりません。

また、何かの機会にお逢いできたら…その時はよろしくお願いします。

それでは。