俺を包む  優しい手と
額にかかる サラサラの髪。



見ると  雅紀は泣いていた。



泣きながら …

俺と同じ場所で生きる、と
そう言った。



眼を閉じ

残っている記憶を 呼び起こす。


雅紀(まさのり)は…
あいつは 泣かなかったな。

俺を支える と言って
ずっと…最期まで笑っていた。



じゃあ…



今、目の前で 泣いているのは… 誰?



…ゆっくり 眼を開けると

さっきまで  見えていた景色とは
明らかに 変わっていた。




俺を 翔ちゃん と呼ぶのは 誰?

俺が 守ろうとしていたのは 誰?


汚れた…俺に寄り添い
手を差し伸べてくれたのは 誰?


俺の為に 傷付いて…

それでも なお 抱きしめてくれる
雅紀のこの手を…

俺は もう…離せない。




雅紀の涙は 頬を伝いながら
俺の唇を濡らした。


「俺の為に…泣いてくれんの?」


雅紀の背中にそっと…手を回し
身体を引き寄せる。


涙を零しながら 目を伏せる雅紀は  
天使のように 清らかで

やっぱり  俺なんかが 触れてはいけないんじゃないかと…

そう思ってしまう。

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「…うん。 

けど…翔ちゃんだって、泣いてんじゃん…」

「……え?」


俺が、泣いてる?
まさか…

目に手をやると  
指に温かいものが…触れた。


雅紀(まさのり)が 逝った  あの日


泣いて…泣いて…全てが枯れた。


それからずっと…
俺の心が 動く事は無かったのに。


「うん…泣いてるよ。キレイな涙…」


そうか。

涙は…枯れたわけじゃなかったんだな。

雅紀と出逢って
ゆっくりと…動き出したんだ。


眠っていた  時間が…。




『俺の分まで…生きて…』


生きる意味を
見いだす事ができなかった俺にとって…

雅紀(まさのり)が遺した この言葉は
呪縛の様に 絡みつき  締め付け…苦しめた。



でも、この言葉は
呪縛なんかじゃなくて。

俺を…

光が満ちた未来へと 
導き…繋ぐ 架け橋だった。


雅紀(まさき)と 出逢う 未来へと…。




雅紀の髪に指を入れ
撫でるように 梳きながら

引き寄せ…キスをした。



一瞬 、驚いた仕草を見せたけれど
直ぐに…委ねてきた。



「雅紀…本当に 良いのか?
俺と居ても、幸せになれないかもしれない…」


「…それ、本気で言ってんの?
幸せかどうかは、オレが決める。

それに、翔ちゃんに幸せにして貰おうなんて思ってないよ?
オレが 翔ちゃんを…幸せにするから」


(ああ… コイツには 敵わないな)

思わず 笑いが 込み上げる。



「…何 笑ってんの?」

「………好きだよ…雅紀が  」



途端に…耳まで真っ赤になる。

それが 可愛くて
耳元へ口を付け…もう一度 囁く。


「愛してる…」


もう…

雅紀(まさき) と 雅紀(まさのり)の影が重なる事は無かった。


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つづく