何年前のことだか定かではありません。
ちょうど今日の満月のような月が
綺麗で暑苦しい真夏の夜でした。
私は黄金町駅近くの自宅マンション裏の川で、ハゼ釣りをしていました。
道行く人達はこんなドブ川で釣れる訳ねえじゃねえかという冷ややかな眼差しで通り過ぎて行く。
そこへ白のロングドレスのメリーさんが通りかかった。
「お兄ちゃん、釣れるかい?」
低い声で話しかけられた。
「それがウソみたいに釣れるんですよ。」
バケツの中にはもう50匹以上のハゼが入っていた。
「後で佐々木さんとこに届けておきますよ」
私は大きな声で答えた。
「天ぷらにすると美味いんだよ」
メリーさんが白粉だらけの顔を、微笑ませて答えた。佐々木さんというのは近くで刺青師をしている人で、元板さんをやっていたのでなにか魚が手に入ったりすると料理してもらいに、みんなが持っていっていたのだ。
メリーさんがこのハゼの天ぷらを食べたかどうかはわからないが、藤原さんに
「天ぷらご馳走さん」
と言ってたらしいので、多分食べたのだと思います。