虹岡健吾の昼休み。

川栄に連れられて特別棟の4階に来ていた。
ここには普段使われていない教室がある。
教室等からは離れている。
秘密の作業をするには最高の場所、と川栄が言った。

で、何をするのかと思えば工作の手伝いである。
なんでも友達が急に転校するとかでメッセージ的なのを準備したいそうだ。
そういうのがめんどくさい虹岡は、自分なら絶対やらないのだが、
川栄の手伝いということでしぶしぶ色紙を切ったりしているのである。

虹岡は作業に飽きてきた。
川栄が黙々と切り貼りしている姿を眺める。

――勉強だと全然集中しないのにな。

虹岡の視線を感じた川栄が顔を上げる。

「さぼってないでどんどん切る!」
「はいはい」

とは言ったものの、まだ気が乗らない。
虹岡は窓から外を眺める。
教室棟の屋上が見える。

そこに一人の男子生徒の姿。続いて女子生徒。
男のほうは知らなかったが、女子は知っていた。

「あ、木崎さんだ」

川栄も作業の手を止め、屋上のほうを見る。

「浜島先輩じゃん!」

この二人、それぞれ口と頭は悪いが、目は異様に良いのだ。

「だれだよ浜島って」
「サッカー部のキャプテン。1、2年女子から人気で人気ですごいの」
「へぇー」
「女子のほう、誰?」
「木崎さん。サッカー部のマネージャー」
「えー知らない。どんな子?」
「こないだの男子内人気投票、2年女子部門で堂々の2位」
「めっちゃ可愛いじゃん!」

ちなみに3位は川栄なのだが、虹岡は言わなかった。

川栄は窓から身を乗り出さんばかりに、木崎に食いつく。

「んーこの距離だと顔はっきりわかんない。スタイルいいなー」
「顔も可愛いよ。スライムにちょっと似てる」

何か喋っているような口の動きだが、内容までは分からない。
そうこうしているうちに、木崎ゆりあを屋上に残して、浜嶋先輩は去っていった。

「あ、話終わった」
「これ絶対あれだよね」
「告白だろ」
「だよね!」

川栄は、みんなに教えないと! とか言いながら残りの作業に取り掛かってた。
虹岡は、そんな必要ないだろうな、と考えていた。
浜嶋とやらは人気の先輩。
川栄には見えてなかったようだが、木崎ゆりあの友達らしき数人があの屋上には居た。
面白がって2年中のホットニュースにするだろう。

川栄と虹岡が昼休みの工作を終えて、各教室に戻る。
川栄がクラスの女子に切り出すより先に、浜嶋先輩フられたって! と興奮気味に教えられた。

虹岡のA組でも、女子が小声で何か喋り、色めき立っていた。

――色恋に興味なさそうに見える堅そうなクラスメイトも、やっぱり女子なんだな。

虹岡にはその事実が面白かった。