ルシファーは、
神の御前の自分の場所を離れて、
天使の間に不満の精神を
流布するために出ていった。
彼は極秘のうちに働いた。
そして、彼はしばらくの間、
神を崇敬しているふうを装って、
彼の真意を隠していた。
彼は、
天使たちを支配していた律法に対する
疑惑をほのめかし始めた。
そして彼は、
諸世界の住民にとって、
律法は必要であろうが、
天使たちは、彼らよりもすぐれたものであり、
自分自身の知恵が十分な道しるべとなるから、
こうした制限は不必要であると言った。
彼らは、神の “み名” を
汚し得るものではない。
その思想もすべて清いのである。
神ご自身が
あやまちを犯すことがありえないと同様に、
彼らもあやまちを犯すことはありえない
と言うのであった。
神の ”み子“ が
父と同等に高められたことは、
自分も同様に崇敬と栄誉を受けるべきだと
主張していたルシファーにとって
不正行為を意味した。
もしも、この天使のかしらが、
彼の当然到達すべき高い地位に
つくことができれば、
それは天の全軍に、大きな利益をもたらす。
なぜならば、
彼のねらいは、すべての者に
自由を確保することだからである。
ところが、
今まで彼らに与えられてきた自由さえ、
もう失われた‥‥
なぜなら、独裁的支配者が、
彼らの上に任命され、
その権威にすべての者が
従わなければならないからである。
これは、巧妙な欺きであり、
ルシファーのたくらみによって、
天の宮廷に急速に広がっていった‥‥
キリストの地位、または権威には
何の変化もなかった。
ルシファーのしっとと虚偽のことば、
そして、彼がキリストと同等の地位を
主張したことから、
神の “み子” の真の地位についての
宣言が必要になった。
しかし、
”み子“ の地位は、初めから同じであった。
ところが、多くの天使たちは、
ルシファーの欺きに惑わされていた‥‥
ルシファーは、
自分の配下の天使たちが、彼を愛し、
真心から信頼しているのを利用して、
巧みに彼らの心に
彼自身の不信と不満の精神とを吹き込み、
それが彼のしわざであることが、
だれにも気づかれないようにしていた。
ルシファーは、
神の “みこころ” を曲げて伝え、
誤解と曲解によって、
紛争と不満をかきたてた。
彼は、
巧妙に彼の話を聞いた者たちに
その感情を口にするように導き、
自分に好都合のときには、
天使たちのそのようなことばを利用して、
彼らが神の統治と完全に
調和していない証拠としてあげた。
自分は、
神に完全な忠誠を尽くしていると言いながら、
神の政府の安定のために、
天の秩序と律法の変更が必要であると、
彼は力説した。
こうして彼は、
神の律法に対する反対を
引き起こそうと努力し、
彼の支配下の天使たちの心に
自分の不満を吹き込みながら、
表面的には、不満をとり除き、
離反した天使たちを
天の秩序に従わせようとしているように
見せかけた‥‥
彼は、最高の狡猾さをもって
ひそかに不和と反逆を培養しながら、
自分の唯一の目的は、
忠誠心を促し、調和と平和を
維持することであるかのように装っていた。
こうして、たきつけられた不満の精神は、
有害な作用をしていた。
公然とした反乱は何もなかったが、
知らず知らずのうちに、天使たちの間に
考え方のくい違いが生じてきた。
神の統治に敵対する
ルシファーの扇動に賛成する者が現れた。
彼らは、これまでは
神の定められた秩序に完全に一致してきたが、
測り知れない神の ”みこころ“ を
きわめ得なかったために、
不満と不幸を感じるようになった。
彼らは、神がキリストを高められることを
不満に思った。
これらの天使は、
神の子と同等の権威を要求する
ルシファーを支持した。
しかし、
真実で忠誠な天使たちは、
神の命令が、知恵と公平に満ちていることを認め、
彼らを
神の “み旨” と和解させようと努力した。
キリストは、神の ”み子“ であった。
彼は、
天使が造られる以前から、神と1つであり、
常に天父の右側に立っておられた。
すべてのものは
キリストの慈悲深い支配下で
豊かな恵みを受けていたので、
その至上権はこれまで1度も
問題にされたことはなかった。
天の調和は今まで
乱されたことはなかったが、
なぜ、今、
不和が起こされなければならないのか‥‥
忠誠な天使たちは、
この不和が恐ろしい結果しか
もたらさないことをさとった。
そして、彼らは、
不満を持った者たちに、
心を入れ替えて神の統治に従い、
神への忠誠をあらわすように熱心に勧めた。
恵み深い神は、
大いなるあわれみをもって、
長い間ルシファーを忍ばれた。
不平と不満の精神は、
これまで天において起こったことがなかった。
それは、初めての不可解な、
説明することのできない新しい要素であった。
はじめのうちはルシファー自身も、
自分の感情の真の性質を
理解することができず、
しばらくは、
自分の心の動きや思いを
口にするのを恐れたが、
その気持ちを一掃しようとはしなかった。
彼は、自分が
どこまで迷って行くのか見当がつかなかった。
しかし、
無限の愛と知恵の神の力が、
彼の非を認めさせるために用いられた。
彼の反逆には、
正当な理由がないことが明らかにされ、
また、彼が、反逆を続けるならば、
どんな結果になるかが彼に示された。
ルシファーは、自分の非を認めた‥‥
彼は、
「主はそのすべての道に正しく、
そのすべてのみわざに恵みふかく」、
神の律法は、正しいものであること、
そして、それを全天の前で
認めなければならないことを知った
(詩篇145:17)。
もし彼がそうしたならば、
彼は自分と多くの天使たちを
救うことができたことであろう。
そのときまで、彼は、
神への忠誠を全く放棄してはいなかった。
彼は、
守護のケルブの地位を去ったけれども、
創造主の知恵を認めて神に立ちかえり、
神の偉大な計画のなかで
与えられている地位に満足するならば、
彼の職務に復帰することができたのであった。
やがて最後の決定を
くださなければならないときがきた。
彼は、
神の主権に全く服するか、それとも
公然と反逆するかのどちらかに
きめなければならなかった。
彼は、もう少しで
立ちかえる決心をするところであったが、
彼のプライドがゆるさなかった‥‥
これまで、不正なものであることを
証明しようとして戦ってきたその権威に、
自分のまちがいと自分の考えの誤りを
告白して服従することは、
彼のように
高い栄誉を与えられてきた者にとっては、
あまりにも大きな犠牲であった‥‥ つづく‥‥
【引用文献】
人類のあけぼの
第1章 罪悪はなぜ発生したか