ガタンゴトン!ガトンゴトン!ドンゴトン!ズゴンバコン!!!

 

 

朝。

 

 

 

それはいつだって俺を現世に呼び戻す。

 

 

 

闇の國から戻された(…といってもどちらがホームなのかわからないが…)俺は日の光に顔をしかめる。

 

 

 

 

「ッ…眩っしい」

 

カーテンレールを開いた俺は天敵の先制パンチにやられた。

 

「あー朝か。」

 

 

日の光は苦手だ。

 

 

だが奴の効果は絶大。

 

 

 

五月晴れってやつか。

 

この光は俺を強制的に覚醒させやがる。

 

 

その効果で目覚めは早く、

 

 

この二日は嘘のように闇の世界から俺を、

この青ざめるような健康的な気分にさせてしまう。

 

 

 

いつもより気分が良く、

ガラにもなくほんの少し早く家をでてしまった。

 

 

 

 

 

 

それが「恋」の始まりだった。

 

 

 

 

 

吉田の朝の電車は混んでいる。

 

 

 

しかし俺は長年の経験から座れる位置を把握していて、

 

スピーディーかつスムーズ、時に力強いコーナーワークで座席の確保ができる名手。

 

 

 

今日もその視界は僅かな進路を捉えていた。

 

 

 

「ここだ!!!!!!」

 

 

決断した俺は降車客の流れに逆らうパワーと末脚で一目散に座席へ突進する。

 

 

 

バカな学生が網棚から荷物を下ろした隙…

 

その一瞬の判断が運命を分けた。

 

 

 

『ザッ!!!!!!!!!』

 

 

 

滑り込むように、滑空するかの如く、俺は端の座席に座った。ドシン!!!とな。

 

 

 

学生の唖然とした表情を眺めながら愉悦に浸りアプリを開く。

 

 

 

「ふっ」とした笑み。

 

 

学生はアホ面さげて網棚に荷物を戻る。

 

 

笑いが止まらないw

 

 

 

 

 

これはもういつもの光景といって差し支えないだろう。

 

 

 

しかし…。今日は。今日は何かがおかしい。

 

 

 

 

そう…。

 

 

 

となりの女。

 

 

 

若い女。

 

 

 

これまた学生か?

 

美容系学生っぽい感じ。

 

 

派手な髪色にデカい銀のピアス。

 

 

中ポチャ色白。

 

 

 

隣のその女が…

 

 

 

俺に…

 

 

俺に寄りかかってくるのだ!!!?

 

 

 

 

「ちょっ!お!おい当たってる!」と言いそうになるくらい。

 

 

も~熟睡。

 

とんでもない寝相だったw

 

 

 

 

度重なるヘッドバンキング。

 

ヘヴィメタライブでもしているのだろうかと思うくらいに。

 

 

 

端の俺に頭をすりつけてきたかと思えば、

 

逆隣りの若いねーちゃんにも頭をすりつけ、

 

反対の女には肘で押し返され、

 

時に後ろのガラスに「ゴンっ!」っと思いっきり頭をぶつけ。

 

マジでさすがの吉田もビビる。

 

そして周囲の人間も思わず笑うやつすらいた。

 

 

 

それが俺に…俺によりかかりまくるのだ。

 

 

 

 

スリスリ…ぐりぐり…グリグリグリグリ!!!

はっ!?と目覚める。

 

そしてすぐに体制を直すのだが…

 

スリスリ…ぐりぐり…グリグリグリグリ!!!はっ!?

 

 

をループする。

 

 

「コイツ本当は起きてるんじゃ…」

 

 

そんな考えすら湧いてきた。

 

 

 

痛いくらいに頭を二の腕に押し付けてくる。

 

 

俺の腕の中で安心しきったように………。

 

 

相当疲れているのか。

寝不足なのか。

毎日勉強や仕事を頑張って。

 

学校に通うために遅くまで働いて………。

 

僅かな電車のひと時に、隣にいた包容力のある男になびいてしまった。

 

そんな彼女を…

 

 

 

俺はたまらなく愛おしく思ってしまった。

 

 

 

 

こういう時の選択肢はいくつかある。

 

①肘ブロック

②起こして「すみません寄りかからないでください。」

③あきらめて寝かしつける

 

 

相手がオッサンの場合俺は確実に①で、

それが原因で逆ギレされて「迷惑かけましたけど!言ってくれればいいじゃないですか!!!」と謎のキレを発動されたこともある。

 

 

俺のとった行動は③だ。

 

 

疲れている彼女を。

愛おしい彼女を少しでも癒してやりたかった。

 

 

やっぱ俺っていい匂いがするのだろうか。

 

 

顔を俺の肩に乗せ。

 

 

それがだんだんズリ落ちていって。

 

 

二の腕…肘…リストにまで、

 

そして落ち切って目が覚めてしまう。

 

もっと安眠させてやりたい。

 

 

「いいよ」って肩を抱いて寝かせてやりたいと思った。

 

 

俺は微笑んでいた。…が。。。。

 

 

ここである事実に気づく。

 

 

 

 

周囲が…周囲が俺と…この子をめっちゃ見ていた。

 

 

 

冷静に考えろ…

 

寝て寄りかかる女。

 

それを受けて喜ぶデブ(35牡)。

 

 

 

見方によってはヤバイ奴みたいになる…。

 

 

 

 

俺は慌てて不機嫌な顔した。

 

 

「チッ!!!なんだこいつ邪魔くせー!迷惑だ!」

 

という顔。困り果てた顔を作った。

 

 

あたかも寄りかかられて迷惑しているかのように。

 

 



でも本当はもっと。もっとその温もりを…ックウッ!!!

 

切ない。許されない。人前では…。

 

俺はスマホで聞いていた五等分の花嫁OPを切り替えてある曲を耳に流した。 

 

【LOVE AFFAIR ~秘密のデート~】

 

連れて歩けない 役柄はいつも他人

嗚呼君の仕草を真似るSunday

好き合うほど何も構えずに…

ただの男でいたい。。。

 

 

 

愛しさと切なさと

作った不機嫌な顔

 

 

今すぐに抱き寄せてやりたい気持ち。

それができないもどかしさ。

 

 

最終的に俺は…

俺も寝たふりをした。

 

 

世間の目から逃れて、

二人だけの世界で羽を休めるように。

静かに目を閉じた。

 

 

 

その時間は一瞬にも永遠にも感じられて、

心の中に様々な感情が浮かび上がって…。

 

 

 

ああ…降車駅だ。

 

 

 

愛し合った翌日のように彼女も目を覚ました。

 

 

「ハッ!」

 

と目が覚めると、

恥ずかしそうに下を向き出口へと向かう。

 

 

 

自分が寄りかかりまくっていた自覚があったのだろうw

 

 

約15分。

 

 

自分を預け、頼り、甘え切った男がいる。

 

 

彼女は降り際に一度だけ振り返った。

 

 

俺を確認した。

 

 

甘い匂いで優しい。包容力のあるプリンス。

 

 

その姿を。

 

 

その時。俺は彼女にどう見えたのだろうか。

 

彼女は俺をどう見たのだろうか。

 

 

事務所に着いた俺はその時を思い出し、

その表情で、「少しは休めたかい?」と話かるような優しい表情で鏡の前に立った。

 

 

 

 

 

 

汗だくの禿げデブだった。