通帳とカードの没収。

俺は完全に頭がおかしくなっていた。

 

俺の500万。

 

俺だけの500万。

 

そのはずだった。

 

擦り切れたパツパツのスーツに身をつつみ、破れたシューズでボサボサの細い髪。

下を向きながらチューペットをすする背中には哀愁すらただよっていた。

誰も寄せ付けない、誰も近寄らせない。そんなオーラを全身にまとい埼玉をとぼとぼと歩く日々。

 

 

~9月27日~

 

27という数字は嫌いだ。

26日に入ってくる一か月分の給料が全て引かれる地獄の日。

一か月間の努力・苦しみ・苦労。その対価を味わえる日数は俺に24時間しか与えられない。

 

「今月は落とせただろうか…」

いつもそんな不安で血の気が引くように銀行に行く。

 

だが、9月27日は何かが違った。

 

「アレ…?口座に11万…???………まさか!!!」

 

そのまさかだ。

忘れていた。完全にリボ変更を忘れていたのだ。

金が入ってくる。

約束されたのをいいことに使いまくった22万が、

そっくりそのまま俺の首にのしかかってきた。

 

「破滅」

 

その二文字が俺の脳裏に刻まれた。

 

 

 

~9月28日~

 

俺は群馬にいた。

 

もう何も考えられない。

ただ不安だけが、焦りだけが俺を高崎線に乗せた。

 

祖母の家のドアを叩く。

 

 

しかし誰もでない…。

俺はへたりこんだ。

 

駅で携帯アプリを起動し一時間。

再び行くがやはりいない…。

 

駅で携帯アプリを起動し二時間後。

チャイムを押すが反応がない。

 

スマホアプリをする電池もなくなってきた。

もう一度行くが誰もいない。

 

そして到着から四時間半。

ピーンポン!ピーンポ!

 

 

「ガチャ」

 

 

 

ようやく祖母に会えた。

 

 

「あら。マサ。」

「やあ。ずっといなかったね・・・」

「病院だったのよ。」

 

そんな会話をしながら中へ。

 

すぐにスマホをコンセントに差しくつろぐ。

 

「今日はどうしたの?仕事は?」

「休んだ…。あの…ちょっと大変な事があって」

「こないだのことでしょう。それ以上ないわよ」

「………」

 

ムリだ。

もうどうにもならない。

話をする前に折られてしまった。

 

だが…

諦めるのか。

最後のチャンス。

地獄と天国のはざま。

このまま恥じらうのか?

やめるのか。

 

3分間の沈黙で一気に頭が活性化された。

色々なことを考えつくした。

もう今となっては思考の巡りも思い出せない。

 

 

気が付くと俺は話していた。

全てを話していた。

 

 

「ばあちゃん。落ち着いて聞いてほしい。

 

俺借金のことははなしていたけどさ。

今月ついに引き落とせなかったんだ。

前の話で来る予定だったから。

 

借りてるところは3つある。

総額で300を超えてる。

 

もうダメ…ダメなんだよ…」

 

 

気が付くと泣いていた。

30を超える男が大泣きしていたのだ。

 

 

祖母はワナワナと唇を震わせた。

 

沈黙。

 

長い沈黙が過ぎる。

 

 

そして…

祖母が口を開く

 

「お父さんに連絡するわ」

 

 

 

そういって俺は帰された。

 

 

 

 

家に帰るとオヤジとおふくろがいた。

もう太陽は沈み真っ暗。

煌々とした明かりの見慣れたテーブルに二人がついていた。

 

だが、

いつもと違う。いつもと違う雰囲気。

 

必ず置いてあるオヤジのアサヒスーパードライがない。

というか、何も机に広がっていない。

 

俺はすべてを察した。

何も言わずに座り。覚悟だけを決めた。

 

 

 

沈黙。

 

またまた沈黙。

 

 

さらに…。

長い沈黙。

 

 

そうして最初に話し出したのはオヤジだった。

 

 

「マサ」

 

それだけ、それだけを発し、

次の瞬間

 

 

 

ベゴオオオォォォ!!!!!!!!!!!!!!

 

 

聞いた事のない破裂音と衝撃が俺の左頬で生じた。

 

気が付くと俺は床に倒れこんでいた。

 

 

本当に意識が飛んだ。

 

右肩を強く打った。

 

ぼんやりしている…。

 

でも…

 

あああああ

 

あああああああああああ

 

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

激痛が俺を襲う。

 

 

あ…

 

 

あれ…

 

 

 

あ………れ?

 

 

 

あ………

 

 

口から血が……

 

 

なんだこれ…

 

 

手で口を押さえると血が大量に出ている。

 

 

骨も、肩も、頭も、全てが痛い

 

 

そして…

 

 

大量の血の中…

 

 

白いものが混じっていた…

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

叫んだ。涙が出た。歯が…歯が折れている。

 

「あああああああ!!!!!!!あああ!あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

声にならない声。

うずくまる俺。

 

そこにオヤジが覆いかぶさってきた。

 

 

ころされるころされる殺される!!!!!本気でヤバい、こいつはこいつだけはヤバい!!!

俺のワイシャツの胸ぐらを掴む。

 

ボタンが取れシャツは裂けた。

なのに…なぜやめないんだこの男は!!!

 

「てめえなんでだ」

 

「なんでだ!!!!!!!!!!!!!!!!???」

 

 

ベゴオオオォォォ!!!!!!!!!!!!!!

 

今度は腹だった。

 

だらりと両手を下げ本当に意識が遠のく瞬間を感じた。

 

 

もうどうでもいい。

 

俺の人生なんてどうでもいい。

 

金もない。運もない。歯も・プライドさえも無くなってしまったのだから。

 

なのに…死ぬことだけが怖くて仕方がなかった。

 

 

 

次の瞬間。

 

またオヤジが拳を上げた。

 

ああ。

 

 

終わりだ。

 

 

そんなに割り切れるわけもない。

俺も小さな男だ。

 

全身を硬直させ身構えた。

痛み・死の恐怖。

どんなに悟りを開いても人間である以上これには抗えないんだ。

 

そんなことを悟った次の瞬間だった。

 

 

バチン!!!

 

 

痛い。

でも、何かが違う。

 

何かが俺の腕にぶつかった。

 

 

 

 

一冊の通帳だった。