1月6日
俺は再び夜を明かした事務所から帰宅した。
鏡を見る。
誰だこいつ。ひどい顔だ。
頬はやつれできものが酷い。目の下はドス黒く無精髭。そして髪がなくなってきている。
俺なはずがない。ここまで…酷いはずはない。
意識が遠のいた。
そして…もう戻ってくることはない。
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悪い夢を見ていたようだった。
ハッと目を覚ますと少女が睨んでいた。
「ちょっと吉田。どうなってるのよ。」
「…ハイ。」
「ハイ。じゃないのよ!!!!!もーーーあと4日よ!!!どうするつもりなのよーーーーーーー!!!」
涙を浮かべながら頭を抱えて喚いている。
「シー!シーっ!親に気づかれるから!!!」
俺は慌ててリサの口を押さえた。
「もうアンタほんとにやる気あんのー!!!バカバカバカ!!!」
もっともな言い分である。
助けてやると豪語したあの日から3日。高知に近づくどころかまだスタート地点にいる。
しかもギャンブルで負けてばかりだ。
「作戦会議をします。」
「もう好きにして…」
虚ろな目をしたリサを無理矢理座らせて俺は改まる。
「目標を下方修正します。」
「…どういうことよ…」
「俺は交通費と宿泊費その他で10万が必要と言いましたね?」
「はぁ。それで…?」
「調べたところ高知へは最安の夜行バスだと7400円で行けます。明日初の便を押さえました。」
「でもお金ないじゃない。」
「そしてこの際です。帰りのことは考えません。現地での食事や宿泊も粗悪なものになりますがそれは…許してくれるか?」
心苦しかった。こんな美少女を粗悪な環境にすることが。
そして見栄を張れない自分が情けなかった。
それを聞いたリサは深くため息をついた。
ああ。流石に見切られる。
俺はまた見捨てられる。
何もできないまま。失敗したままいつものように。
「あのね?吉田。」
「……………」
「今それ言う?」
「……………」
虚ろな目が怒りの色に変わるとリサが態度を急変させた。
「今でも十分粗悪でしょうがー!!!おっさんと同じ布団で寝て食べ物もカップラーメンばっかじゃない!!!お茶は淹れ方下手だし化粧品もないしーーー!!!服もブカブカのジャージよ!!!あーーーもーーーケーキ食べたいーーー!!!」
突如泣き顔になって叫ぶリサ。
そうだ。そうなんだ。俺を信じて。俺を頼ってこの少女は我慢していた。
俺は我慢させていた。
バチン!!!!!!
俺は自分の頬を強く叩いた。
顔は真っ赤に腫れ目に涙が滲む。
「ちょっ!吉田何してんのよ!!!」
「すまないリサ。そしてありがとう。もう一度。もう一度だけチャンスをくれないか?明日の夜必ず高知に向かう。」
俺は立ち上がるとコンビニへ走った。
ファミマの100円プリンを買ってまた走り出す。
部屋に戻る前に紅茶を入れた。
柄にもなくそれをお盆に乗せて部屋に入る。
「ごめん今はケーキは買えないが…これで我慢してくれ。」
「…吉田………」
リサはそれを受け取るとマジマジと見てプリンを口へ運んだ。
そして…
「…今度…ちゃんとしたケーキのお店連れてってよね?高知においしいとこ…あるから。」
優しい笑顔だった。
俺は涙が出た。
「…ごめん…ありがとう…」
「ちょ!何アンタ泣いてるのよ!私のためにしてるのにありがとうとか意味わかんないわよ!」
焦りながら言うリサ。
そしてプリンひとすくいしてこちらへ向けてきた。
「ア…アンタにも一口あげるわ。ホラ…。」
宇宙一おいしい食べ物だった。
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気づくと俺は部屋で一人プリンを食っていた。
ゴミ箱に残骸を放り投げ布団に潜り込もうとするとうんこが漏れた。
なんだかもうわからない。