「あーーー!クソっ!!!」
深夜の街荒げた声が響く。
声の持ち主は机に突っ伏して頭をかきむしる。
目の下にはどす黒いクマ。枯れた声にやつれたほほ。細くなった髪の毛。
かなりお疲れの様子だ。
年下女子が見ればその必死な姿にパブロンを差し出しながらジュンとなる姿。
無精ひげをジョリジョリと鳴らしながら机にしがみついている。
「ダメだ…決定打が…有馬記念の決定打が見当たらねえ…」
しかし収穫がなかったわけではない。
有馬記念とはどういうレースなのか。
それを理化するには十分な成果が上がっている。
さて、ここで質問だがみんな何をもって競馬を予想しているだろうか?
競馬には様々な要素がある。
例えば展開、例えば馬の能力、騎手、枠、コース適正、パドック、血統…
しかし質問に対しての答えは大体こうだ。
「俺は血統」「俺は騎手だな」
などなど。
わかる。その一つ一つはどれも重要な要素だ。
だが、競馬とはその複数のものが絡み合った先に結果がある。
その一つだけを都合よくピックアップする行為は予想ではない。「願望なのだ」
有馬記念において
重要なデータはもうそろっている。
①年齢
過去10年を見ると3歳馬が4割近い複勝率を誇る。
ついで4歳、5歳となっている。
3歳の数字に関しては斤量もあるだろうが、6歳以上となるとからっきし。
その理由はすでに昨年証明済みだ。
レベルが高くペースが上がりやすい中山。急坂2500ということで純粋なパワーが必要なコースだ。
器用さも大事だが、ベテランよりも筋骨隆々な若手が躍動する舞台ということだ。
騎手が若手扱いされる30代でもフィギュアスケートやサッカーでは大ベテランというようなイメージを持ってもらえればいい。
このコースは特殊なのだ。
高齢で馬券になったのはアドマイヤモナーク・エアシェイディくらいのもの。
その二頭とも追い込み馬である。展開利もあり諦めムードの馬券内。前目から自力で勝負はできていない。
若く、フレッシュであることが大事なのだ。
②枠順・脚質
小回りでコーナーを何度も回るコース。だからこそ外枠は不利です。
ダイワスカーレットやロブロイ・タップのようにハイペースになっても粘れる能力があれば、むしろロスなく回れるだけ逃げてしまったほうがいいこともあります。
また読みづらいのがこの時期の中山です。
先々週はグリーンベルトができて前が止まらなかったですが、先週はかなり緩和されました。
キタサンを勝たせる流れを察してJRAはローラーかけそうな気もしますがそればかりは開催を観ないと何とも言えません。
今回レースの流れを予想すると、まあおそらくキタサンのマイペースでしょう。
武だからか他の騎手がせりかけない。毎度楽なレースをしている。
それがキタサンの強さです。
正直ね?能力は大したことありません。
いやいうほどのものではないです。確かに堅実で器用。
ですが、有馬記念・そして宝塚記念という小回り急坂で力のいる馬場が多い場面はそんなものよりも純粋な能力が必要なのです。そしてそこで未勝利なのがこの馬。
グラスワンダー・マツリダゴッホ・ドリームジャーニーなど、天才を怪物が打ち倒すのがこの舞台なんです。
………
「となるとやはりここは能力のあるサトノクラウンが…」
言いかけてやめる。
そうこれでは先ほど言った「ただの願望だ…」
競馬というのはざっくりというと【能力±外的要素(コース・枠・調子など)】で計算される。
しかし外的要因は広い府中と小回り中山で与える影響が異なる。
どのコースがどれだけ外的影響を与えることができるのか。そこさえデータ化してしまえばなんとも高度な計算式が出来上がる。
「今日の馬場レベルは+3.14…つまりここにこの数字を入力し…よし!」
という形にな。
その計算式の算術に机にしがみついている。
「あーーーーー!!!!!!!!!!もうダメだ!!!!エネルギー切れ!!!!!」
目の前にあるコカコーラーを一気飲みしコンビニへと歩く。
すっかりおなじみになったタバコに火をつけファミチキを貪る。
しかし頭の中はもう計算式のことしかない。
街頭がポツリポツリと並ぶ街をみて思い出す。
学生のころは競馬のことばかりだった。
ネット掲示板で知り合った仲間と毎日メールをして競馬の話。
あぼーん吉田としてコテデビューし競馬に注意を向け続けていた。
「あのころは仲間もいたんだな…」
とため息。
「…あのころ………そうか。」
思い出した。学生の頃。大学院の時。
競馬の話をしていた人間が一人いたことを。
彼も理論的馬券の使い手だった。
卒業してから疎遠になっていた。
「あいつ何してんだろ…。まだ競馬やってるかなあ。」
つぶやいた時には携帯を握りしめていた。
プルヌヌヌ
プルヌヌヌ…
「…もしもし?」
MASA「お…えと…小野くん?」
小野「ああ!吉田!久しぶりだな!どうした!」
ずいぶんと快活になってる小野に戸惑う。どうしたも特に理由はなく思い立っただけだ。
MASA「え…いや…元気か?」
小野「まあ忙しいけどな!吉田はどう?」
う~ん何とも久しぶりの知人同士の話っぽいではないか。
ほんの二言三言会話をかわして本題に入る。
MASA「あ…あのさ。小野くんまだ…競馬やってる?」
ただの会話だ。だが震える。
もし…、もし「は?wお前まだそんなことしてんの?www」とかいう返事が来ればきっと俺はまた閉じこもってしまう。またおいて行かれたあのショックに飲み込まれてしまう。
ただの会話だ。だがトラウマと深い傷を負った俺のHEARTを崩壊させるには十分なのだ。
そして小野から声がする。
小野「…ああwめっちゃ負けてるわwwwwwwwww!」
頬を何かが伝った。
不意に涙が出た。
安堵か。懐かしさか。わからないが涙が出た。
久しぶりに仲間と再会した時。こうなっているのだろうか。
小野はまだ結婚はしていないようで都内で企業勤めしているとのこと。
それもそうだろう。彼は院時代からハゲていた。
そして渾身の一言を見舞う。
「22日金曜日。仕事終わりに一杯やらないか?」
小野は簡単に承諾してくれた。
本題は直接会って話そう。一人では出来上がらない計算式なら2人で作ればよい。
三本の矢だ。三人集まればもんじゅの知恵だ。
そんな再開がJRAを窮地に追いやる、あのMASA指数になることを今は誰も知らない。