【読売新聞12.26 / 文化/文芸】
わからないものに心開く
80歳になった解剖学者、
養老孟司さんが『遺言。』(新潮新書)
を出した。湿っぽさはなく、
知的興奮に満ちた明るい遺言である。
(編集委員 鵜飼哲夫)
『バカの壁』の著者が、
口述筆記ではなく書き下ろしで
出版するのは10年以上ぶりとなる。
『死んでも当たり前の年になった』
こともあるが、この夏、
イヌが波と戯れ、
無心に遊んでいるのを見て、
『これが生きていることで、
幸せということだなあ。
それにしては子供のこうした姿を
しばらく見ていないなあ』と
思ったこともきっかけとなった。
『最近、子供が死を選ぶでしょ。
夢中に遊ぶ楽しさを知っていれば
死にはしない。でも遊び場を
減らされ、遊んでばかりいないで
勉強しなさい、と言われる。
子供が人生をつまらないと感じるのは
自然と戯れ、遊びを通じて
人生を学ぶ機会が奪われているからです』
その背景には
『意識』によって『わかる』ことに
価値を置く脳化社会がある
それが本書の骨子である。
効率や合理性が重視され、
空き地はつぶされ、
『何をやるかわからない
子供の居場所は与えられず、
子供は大人の予備軍とされ、
ああしなさい、
こうしなさい、
とやりたくもないことをやらされる』。
子供が生きづらくなるはずだ。
『ものわかりのよさ』とは
成長の証し、と考える人は多いが
そう考えない。
『人の心がわかるというのも
詐欺的で、他人の立場になって
考えることはできても、
心はわからない。
いまだ女房が考えていることだって
わかんない(笑)』
『でも、わからないと思うから
経験や修羅場を経て、
相手の立場を理解していくわけで
これが大人になるということ。
へたにわかるなんて思うから
わからないものを否定し、
排除する』。
神奈川県相模原市で起きた
19人殺害事件は、
その極端な事例という。
『わかる』ことを重視する社会は
秩序を求めるが、
都市の秩序は反面で、
自然破壊など
別の混沌を生む。
『掃除機で部屋を掃除したつもりで
掃除機の中はゴミが増え
無秩序状態になっている』。
わからないこと、
見えないものを無視する社会は
危ないという指摘には説得力がある。
どうすればよいのか?
『もっと自然と接する時間を
増やした方がいい。
自然には、
なんでこんな虫がいるのか、
意味がわからないものが
たくさん生きていますから。
そんな存在に心を開くことが
大切です』
最後に、本当の遺書は残すのかと
聞くと
『死んだ後のことは
生き残った人にまかせます。
死後のことはわかりませんし』。
わからないものに心開く
80歳になった解剖学者、
養老孟司さんが『遺言。』(新潮新書)
を出した。湿っぽさはなく、
知的興奮に満ちた明るい遺言である。
(編集委員 鵜飼哲夫)
『バカの壁』の著者が、
口述筆記ではなく書き下ろしで
出版するのは10年以上ぶりとなる。
『死んでも当たり前の年になった』
こともあるが、この夏、
イヌが波と戯れ、
無心に遊んでいるのを見て、
『これが生きていることで、
幸せということだなあ。
それにしては子供のこうした姿を
しばらく見ていないなあ』と
思ったこともきっかけとなった。
『最近、子供が死を選ぶでしょ。
夢中に遊ぶ楽しさを知っていれば
死にはしない。でも遊び場を
減らされ、遊んでばかりいないで
勉強しなさい、と言われる。
子供が人生をつまらないと感じるのは
自然と戯れ、遊びを通じて
人生を学ぶ機会が奪われているからです』
その背景には
『意識』によって『わかる』ことに
価値を置く脳化社会がある
それが本書の骨子である。
効率や合理性が重視され、
空き地はつぶされ、
『何をやるかわからない
子供の居場所は与えられず、
子供は大人の予備軍とされ、
ああしなさい、
こうしなさい、
とやりたくもないことをやらされる』。
子供が生きづらくなるはずだ。
『ものわかりのよさ』とは
成長の証し、と考える人は多いが
そう考えない。
『人の心がわかるというのも
詐欺的で、他人の立場になって
考えることはできても、
心はわからない。
いまだ女房が考えていることだって
わかんない(笑)』
『でも、わからないと思うから
経験や修羅場を経て、
相手の立場を理解していくわけで
これが大人になるということ。
へたにわかるなんて思うから
わからないものを否定し、
排除する』。
神奈川県相模原市で起きた
19人殺害事件は、
その極端な事例という。
『わかる』ことを重視する社会は
秩序を求めるが、
都市の秩序は反面で、
自然破壊など
別の混沌を生む。
『掃除機で部屋を掃除したつもりで
掃除機の中はゴミが増え
無秩序状態になっている』。
わからないこと、
見えないものを無視する社会は
危ないという指摘には説得力がある。
どうすればよいのか?
『もっと自然と接する時間を
増やした方がいい。
自然には、
なんでこんな虫がいるのか、
意味がわからないものが
たくさん生きていますから。
そんな存在に心を開くことが
大切です』
最後に、本当の遺書は残すのかと
聞くと
『死んだ後のことは
生き残った人にまかせます。
死後のことはわかりませんし』。