途方にくれながらも、父を自宅に連れて帰ってきました。


その後、父の介護をどうしたら良いのか、話あうことになりました。


私は週4日、仕事をしていて、私が出勤する時間に父が起きてくるかわからない。でも、食事前のインスリンは、家族の誰かが注射をしなければならない。夕飯前のインスリンも、時に私も用事があって、間に合わないことだってある。そのときに、どうすれば良いのか。


姉は、母にやらせようという算段でした。姉は、母が認知症のようになっていても、家事をきちんとする人はいるということを仕事の中で見ているので、父が糖尿病であるにもかかわらず、食事の管理をしていないことが許せないようでした。だから、インスリンだって、その気になれば打てるというのです。


母は元々が依存的なところがある人なので、当然のように「そんなの怖くてできない」と弱気になります。


しかし、姉は母を執拗に責めます。「認知症の人だって、やる人はやるの。お母さんは奥さんなんだから、お父さんの世話をするのはお母さんの仕事なの!」


母は責められ続けた挙げ句の果てに、泣き出しました。


さすがに、私としてはいたたまれず、「お母さん、そんなこと言われたってつらいよね。今、気分が落ち込んでいるし、注射は私がやるから良いよ」

と、母の背中をさすりながら言いました。


それを見て、姉は、「馬鹿みたい」とでも思っているかのような、冷たい目つきで私たちを見ていました。


結局、基本的には私が朝、晩のインスリンを注射し、私が夕飯の時間に帰れないときには、義兄が注射しに来ることにになりました。


これから後も、姉の母の病気への無理解は続くことになりました。

病院とやりあった後、私は老人ホームで勤務中の姉に電話をし、姉と義兄が後から病院に駆けつけてもらうことになりました。

その間、父の病室にいました。夜になり、夕食の時間になりました。夕食が運ばれてきましたが、お茶も注いでもらえません。むせやすい父に普通食が提供され、看護師の見守りもありません。

私がお茶を注ぎにいき、食事の見守りをし、服薬の確認をしました。

他の病室を見てみると、やはり入院患者の家族の方が患者さんの介助を行っていました。 人手が足りないとは言え、これでここのスタッフは良いと思っているのでしょうか?これで仕方がないと諦めたらそれで終わりだというのに・・・。


姉はあと30分で仕事が終わると言っていましたが、実際に病院にやってきたのは、1時間半ほど後のことでした。私に話したことと同様の内容を主治医と看護師長は話し、自宅に連れて帰ろう、ということになりました。


私は途方に暮れました。


父はまだインフルエンザも完治していない状態。排泄はおむつ使用だし、インスリンの注射も朝、晩打たなければならない。いったい、どうすれば良いのか。それより、癌の治療をこれからどうすれば良いのか。金輪際、この病院の世話にはなりたくない。でも、受け入れてくれる病院があるのか・・・。


その後、皆で父の荷物の片づけをした後、看護師からインスリンの打ち方を教えてもらいました。初めてのことで、できるかどうか心配でしたが、皆、自分で注射を打っているわけですから、慣れかな、と思いました。それより、私がいない時はどうしたら良いんだろう、母では難しそうだし。


いろいろと頭を巡らせながら、義兄の車で自宅へと帰りました。

私の勤務する病院を受診した、その日のこと。



夜9時頃だったか。



入院中の病院から、我が家に電話がかかってきました。



「インフルエンザにかかったので個室に移ったのですが、部屋から出歩いてしまうので困っています。家族の方の付き添いをお願いします」



「病院側の事情によって、家族の付き添いをさせることは禁止されていることだと思うのですが」



「そうなのですが、看護の人手が足りないので、目が行き届きません。付き添いをお願いしたいのですが」



「家族と相談します」

私は姉に電話して相談をしました。しかし、姉も私も仕事を持っているし、高齢の母親に深夜看病させるのも酷です。



やはり、付き添いはお断りしました。



そして、翌日。

私は父に衣類を届けに、仕事帰りに病院に寄りました。



その時、病室に事務の人がやってきて、個室に病室を移ったので、差額代が発生すると言ってきました。



「患者の容態で、やむなく個室を使用する場合は、差額代はとれないはずですよ」



私は書類へのサインを拒否しました。




その後、私はナースステーションに呼ばれ、主治医と病棟師長と話をすることになりました。


主治医は「すべての患者さんに同じように手篤くできれば良いのですが、病棟の都合でそれは不可能です。既に血糖のコントロールも良くなりましたし、インフルエンザも熱がひいたので、退院しても良い状態です」

私「熱が下がってきたといっても、完全に下がったわけではないですし、完治していないですよね。完治するまで入院は継続できないんですか」

主治医「ご家族が付き添っていただければ良いですが、状態としては退院可能です」

私「それでは、家族が付き添わなければ、退院しろっていうことですね」

師長「お父様はインフルエンザをもらって帰ってきて、個室に移しても、他の患者さんの部屋に歩いていって、咳をするんで迷惑をかけているんですよ。エレベータで下りて、外に出てしまって危なかったんですから。それで怪我でもされても、病院としては責任をもてません」

私「でも、病院は家族の付き添いを頼むことは禁じていますよね」

師長「でも、実態としては手が足りないから、こうしてご家族にお願いしているんじゃないですか」

私「それってあくまでも病院の都合でしかないですよね。家族が付き添えない以上は、病院の中でやりくりするべきですよね」

師長「だいたい、完全看護とか言われていますけど、そんな言葉は存在しないんです」

私「インフルエンザだって、父は病院に入院していて外に出ていなかったんですよ。今日感染して発症するわけではないのですから、院内感染ですよね」

師長「でも、病棟のスタッフは誰も感染していませんし、他の患者さんは感染していないのですから、院内感染ではありません。部屋代も支払はないということですよね。ソーシャルワーカーを呼んでも良いんですよ」

私「病状の変化によってやむを得ず差額部屋に移さなければならない場合は、部屋代をとってはいけないことになっているはずです。もう良いです。でも、癌のことはどうするんですか」

主治医「それは今度外科の医師に伝えておきます」


私は一存で決めるわけにはいかないので、家族と相談した上で、父を自宅に連れて帰ろうと決めていました。