吉村さんにしては珍しいとも思える
純粋な小説。

解説で山際さんも書いていますが、
これは青春小説であると僕も思う。

主人公は若く強いボクサー。
脳に欠陥のある姉、ギャンブル狂いの父、母は数年前に男を作って出て行き、弟が父を殺してしまい、やっとできた心の支えである恋人も、ジムのライバル選手に暴行される。。

とまあ人生は厳しいという人間としての本質を
これでもかと執拗に鋭利に表現している。

でも、読者を人生は厳しいのだとただ絶望させるわけではなく、
そこには何ともいえない安心感らしきものも常に存在する。
そこが稀有な書き手であると吉村さんを僕が思う一番の理由なわけで。

あるいは人は一瞬の快楽のみで、
残りの辛い人生を生き抜いているのかもしれない。
例えば相手の顎に鋭いフックを入れ、それまで何者をも恐れていないほど自信に満ちていたはずの表情が突如として消え失せ、瞳孔が開き、前のめりにゆっくりと倒れてくる瞬間とか。
吉村さんもこの小説の中でその辺りの描写はしつこいほどにしていたから、恐らく僕が言う「あるいは人は一瞬の快楽のみで云々」という側面を、吉村さんも考えていたのかもしれない。

そう思うと何となく嬉しくなる。