最近のコンビニスイーツは侮れません。
先日買ったファミマの『バニラ・とろりプリン』僕はどんな甘味でも素材の味が立っているのが好きなんだけどこのプリンはその点文句無しだった。
表示を見たら作っているのは『おはよう乳業』(岡山市)…
明治や森永みたくでかい会社では無いトコが好感度大であります。



お悔やみを言う僕にS場さんは…ちょっと微笑んだ。

まあね…なんつ~かさ、オレもガックリ来ちまったよ。

少し寂しそうだった。ウン十年前…学術書の出版社としてはそれなりに有名なM社をとある事件が元で辞め、エログロぞっき本の出版社だった今の会社に入ったS場さん…

元々が経理畑のヒトだったんで以後、恩田さんの会社の金の出入りは全部彼が面倒をみて来たはずだ。
言わば社長と二人三脚で会社を運営してきたのである…
S場さんが落ち込むのも無理は無い。

しかし…その時僕は重大な疑問点に思い当たった。

現在の奥さんがあのパチドール屋の女社長だったS川早苗だとしたら…二人かどういう経緯で結婚したかをS場さんは絶対に知っていたはずだ。
S場さんと恩田社長の関係からみてなにも知らなかったと言うのはどう考えても不自然…つ~かあり得無いだろう。


あのですね…今の奧さん…早苗さんとは何時頃から?

ん…?
その辺りの経緯って沙羅パパ氏はまるっきり知らなかったっけ?

沙羅パパさんだけじゃ無く僕だって知らなかったですよ。

僕に答えようとするS場さんより先にJが言った。

アレは何時だったっけかな~…君達かどっかの店の女の子とあの人形屋の跡地で怖い目に逢ったって話したコトがあったろ?

話は思いがけず近場で繋がった。

と、言うか恩田さんと今の奧さんである…旧姓S川早苗の付き合いは意外と最近だったのだ。
↑(ま、それでもかなり経っているけどさ)

あの話を沙羅パパ君から聞いた二、三日後にS川早苗から電話があったんだよ。

パチドール屋の店を挨拶も無しに閉じた彼女を、当初恩田さんは例の調子で…

たくよ~最近の若い経営者は礼儀を知らないつ~か、挨拶が出来ないつ~か…仁義の通し方一つ知らねぇんだからな。

と、まあボロクソだったんだそうですわ。

そもそも恩田さんと言うヒトは神田生まれのチャキチャキの江戸っ子で口は悪い…

口は悪いがこれまた江戸っ子の常で根に持っていつまでもグズグズ言うタイプでは無い…
まさに口先ばかりで腸(はらわた)無しの江戸っ子である。そう言う点からいけば僕の方がよっぽど根に持つし、執念深いと言えるだろう。

ま、そこいら辺が朱引きの内の神田と…荏原郡目黒村で生まれ育った…

黒引きギリギリの目黒生まれの僕の差なのかも知れない。

いや…彼女は当時かなりヤバイ状況下に在ったんですよ。
S場さんはそう言うとタバコをくわえた。

完全に余談だがS場さんぐらいハイライト似合うヒトもなかなかいないだろう。

ヤバイ状況って…?

あの男だよ。
経理をやってたって触れ込みの…

確かK森さんでしたっけ?

そうK森定男。

僕の言葉にS場さんはタバコを大きく吸い込むと言った。
K森氏の名前を口にするとき彼の口調にかなりの嫌悪感が浮かぶのを感じた。

S場さんが他人に対してこういう反応を見せるのは極めて珍しい。
話はお定まりの色と金ってヤツですか?

彼は僕の問いに無言で頷いた。

経理屋上がりで金に詳しい人間が経理畑で悪さをする…つ~のは別段珍しい話じゃ無いけど…
あのK森って野郎はやることが悪質過ぎた。
よく詐欺をやる人間は、騙すなら…金持ちより貧乏人を狙え…と言うけど、まさにK森は親父さんの借金に追われて金に困っていたS川早苗をセオリー通りにターゲットにしたのだ。

沙羅パパ氏もJ君も…一千万単位の借金が在ったらどうする?

S場さんは僕達に突然尋ねた。

ソレってどういう筋のお金です?
ヤバイ方とか?

Jが問い返す。

今のって早苗さんのはなしですよね? どうなんたろ?

はっきり言ってS川早苗の親父さんはひっちゃかめっちゃかなヒトだったらしい。
総額で一千万円ちょい…相手は堅気からヤバイ筋まで千差万別だ。
K森定夫はそれをまとめて返し易くしてやる…とかなんとかそんな触れ込みで彼女に近づいた。

貴女の抱えた借金を自分で返す…と言えば怪しまれるけど…まとめると言えば…しかも経理の専門家が言えば普通は信用する。

ま、ちゃんと話を聞けばK森の言うことにもかなり怪しいトコは在ったんだろうけど…
そこは貧すれば鈍する…溺れる者は藁でも掴むって話だ…

借金を返す…僕なら働けるなら働きますけどね…。

今頃になってさっきのS場さんの質問にJが答えた。

そう。それが正解。
一千万円単位の借金ならどんな仕事だって働けばなんとかなる。一番ヤバイのは…

商売で儲けて返そうとするコト…

割り台詞にした僕の言葉をS場さんが続けた。

その通り。働いて返しさえすれば一千万円程度の借金なんてモンは返せる。
だがそれを素人が商売をして返済しようとすると…

まず間違いなく上手くいかない。少し世の中が解っている人間ならそんなのは常識である。
S川早苗はK森定夫に鼻から騙されていたのだ。

K森の目的は最初から金と彼女の身体だったのである。

勿論S川早苗だって馬鹿では無い。
途中でK森の企みに気付いてはいた。

だが気付いたときには状況悪化し親父さんの借金は減るどころか増えていたらしい。

彼女は店畳んで逃げ出した。
当然K森の行動範囲にはいられ無い…。

ま、彼女の電話じゃ詳しい無いは解らなかったんだけどさ…
その電話の1日だか2日後に今度はK森からうちに電話があってさ…勿論ホントのことなんか喋りはしないよ。
だが前日のS川早苗の電話と後からかかってきたK森の話から恩田さんは二人のあいだに起こったことの事情を察して…
訊いて在ったS川早苗の連絡先に電話をかけたのだ。

勿論K森に教えたはしていない…

社長の話じゃK森から連絡があったと聞いた時のS川早苗はかなり慌てたらしい…

どうも彼女、電話口で泣いちゃったみたいでさ。
社長が往生してたよ。
で、その後、恩田さんは?

Jが尋ねた。

結局その日、社長はS川早苗に会いに行った…
二人の間でどう言う話が交わされたのか俺は知らないよ…ただその次の日からの社長の動きは速い…つ~凄かったね。

S場さんはちょっとその時を懐かしむような目をしてハイライトの煙を吐いた…
Jが殆んど手付かずだったカップに口をつけ…僕もそれに倣ったがコピーは既に冷め切っていた。

ナイト気取る…つ~柄では無いがその時の恩田さんはなかなか格好良かったらしい。
S川早苗がパチドール屋から持ち出した書類を調べるとすぐさま知り合いの刑事に連絡をとりK森定夫の動きを封じたのだ。


K森定夫は叩けば必ず埃が出る。
恩田社長の読みはある意味正鵠をついていた。一週間と経たないうちに彼は所轄に逮捕されたのだ。

ナンとかなるかな?
Fさんのシナリオを一読した僕は内心、一番ネックになるのは舞台となる豪農の新築屋敷だと目星を着けていました。


根拠は…在りません。
言ってみれば美術屋の…裏方の勘みたいなモンです。

この屋敷さえ予算内でナンとかすれば後は各セクション…ぶっちゃけ一番は資金を出す恩田さんの会社が多少泣きを見ればナンとかなるような気がしたんです。

このお屋敷…ロケだよね?

僕は誰に尋ねるとも無く、念を押す様に言いました。

あ、その家か…一応使えそうな屋敷には当たりがつけてある。
そ~だよねMちゃん?
Fさんは僕の言葉に答えると一座の一番端に座っていたジーンズ姿の青年に向かって言いました。

この作品に於いて最大の被害者兼功労者となるM君です。

立場はベテラン監督のKさん着きの助監督…当時、専門学校を出たばかりでした。

Kさんと言う監督さんはぶっちゃけ…名匠だの巨匠だのと言われるタイプではありませんでしたが…手堅い仕事をする職人タイプの監督さんで…ピンクだけでなくTVドラマやCMなんかも撮っていました。

恩田さんとしてはこの作品に当たり障りの無いKさんを据えたのは、絶対に失敗したくないと言う彼なりの決意表明だったのでししょう。

奇才の俊英のと惹句だけは立派な若手を連れて来ても撮影が長引けば泣きを見るのは製作者です。

出来る限りは安全牌をという考え方に文句はつけられません。

古くなった屋敷の方は問題無いんですけどね…この家…どう思います?

M君はど~やらロケハンで撮ったらしい写真を何枚か見せてくれました。

千葉辺りの農家でしょうか? 旧くて立派な家が写っています。
確かにコレなら建って時間が経ち歳をへた屋敷には使えますがいくらなんでも新築には無理があります。
ナンとかなる?

恩田さんがすがる様な目で謂いました。

コイツを新築に見せるには全面塗り替えしかないよ。

かなり予算がかかっちゃうけど大丈夫…?

ん~いまんとこ美術に避けるのは十万くらいかな…
でも家の方は煮ようと焼こうと問題無いよ。家主の了解はとって在るからさ…
この家、来年にも取り壊すんだよ。

で、シナリオ上の順番…所謂撮り順やら役者さんのスケジュールを勘案すると中一日ででっかい屋敷を『古い』→『新しい』…と化粧直ししなくちゃならないコトがわかりました。
すっかり煤けてしまった壁と柱は全面塗り替えです。

塗り替えるって言っても軽く八十坪はありますよ?

M君が目を向きました。彼は学生時代TV局の美術進行のバイトをやったコトがあって美術予算てぇのが如何に銭喰い虫なのかはある程度分かっていたんです。

ま、照明さんとカメラさんには多少協力してもらわないとならないだろうけどね…
壁は塗り替えて飛ばします。

で、柱は…?
壁は白っぽくハレ気味に撮ってもらうにしろ柱はそうはいかないでしょう?

流石に美術進行のアルバイトをしていたつ~のは伊達じゃありません。

M君は美術予算の銭喰い虫なところをちゃんと理解していました。
柱周りはトノコで塗る。
で、目立つトコは…名木風に書き割る…

で、出来るんですかそんなコト?
いや美術さんが言うなら出来るんでしょう…後、畳はどうします?
壁と柱が新品で畳だけボロボロじゃ可笑しいですよ?

畳…コレはかなり厄介です。
……厄介ですが僕はそんなトコは露ほど見せずに言い切りました。

大丈夫…畳は映るところだけ面替えをする…もっとも使うのはビニールの畳面だけどさ…

家の中はナンとかなるにしろ屋根はど~しますか?

山積みになってた問題が端から解決したからでしょうかFさんが多少砕けた調子で言いました。
本来は『藁葺き屋根』だった件のお屋敷の屋根はトタンの上吹きがされ盛大にペンペン草が生えています。

いくらなんでも茅の吹き替えってワケにゃいかんだろ…Fさんがちょっと引き気味に撮った農家の写真を手にして言いました。

…屋根は…グラスワークでいきます。
僕は他人ごとのように言いました。

グラスワーク…つまりは絵合成ってヤツです。
僕としてはこっちに関しては多少心当たりがありました。

むかし、同人誌でイラストを描いていたM元君です。
彼はスーパーリアリズム風の絵を描かせるとプロ並みに上手いんですよ…。
いやいや…プロでも彼より画力が劣る人間は幾らもいるでしょう…。

ただ問題が一つ有って…M元はメチャクチャ仕事が遅いんです。
同人誌をやってるとき、どれだけ泣かされたことか…

ま、あいつのケツは俺が叩くしかないか…

僕は覚悟をきめました。
かくして僕としてはかなりの不安を孕んで…そしてそれを誰にも言えぬまま、A子嬢の復帰第一作は動きだしたのです。

で…その映画って完成したんですか?
ハンドルを握っていたがJが尋ねた…。

公開したら凄いヒット…というわけじゃなかったしM元の仕事は相変わらず遅れに遅れたけど…映画そのモノは無事予定通り完成した。
恩田さんも損はしなかった筈である。

ま、俺は死にかけたけどね…

やっぱりしんどかったんですか?

当たり前だ…煤けてボロクソの百姓屋の壁を一日で全面塗り替えして、おまけに柱に白木の書き割りをやってみろ。

僕は憮然として言いました。
そしてそれを合図にしたかの様に行く手に有楽町マリオンが見えて来ました。

ここニ、三日でかなり忙しい…というか酷い目に遭ったのでしょう。
久方ぶりに会うS場さんは思ってたよりかなり老けて見え…おまけにちょっぴり小さくなった様な気がしました。

わざわざ悪かったね沙羅パパ君…例の映画の打ち上げ…いやいやそのあともビデオの編集で会ったっけ?

S場さんは懐かしそうにいいました。

社長急だったですね。
僕の言葉に頷くとS場さんは大きく溜め息をつうた。

この稿終わり…