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メルセデス・ベンツ SLS AMG E-CELL
AMGが作る電気自動車、E-CELLはまさに電動スーパーカーだった。何の前触れもなしにフル加速に移るEVの加速フィールは異次元の感覚だ。
AMGは出力換算533psのスーパーEVを数年以内に発売予定。
EV=電気自動車は究極のエコカー――そう考える人にはいささかショッキングな、際立って高い走行性能を売り物とするEVが、このところ欧米で立て続けに発表されている。派手な“蛍光イエロー”に塗られたこのモデルもそうした中の1台。何しろこのEVは最高出力が実に533ps! 0→100km/h加速はわずかに4秒ほどでクリアし、最高速度も250km/hに達するというモンスターマシンなのだ。
ベースとなっているのは、2009年のフランクフルト・モーターショーで発表され、「AMGが全てを開発した」という謳い文句とともに先頃日本にも上陸を果たしたばかりのたメルセデス・ベンツSLS AMGだ。
しかし、その最後に“E-CELL”の文字が加えられたこのEVは、高回転・高出力型の6.2リッターエンジンを搭載した量産バージョンとは異なって、実は世界にまだ1台だけのプロトタイプ。とはいえ、これは単なるショーモデルには留まらない。何故ならば、AMGではこのモデルを「ここ数年の内に発売する」とすでに正式発表しているからだ。
蛍光イエローの特別塗装やLED化されたヘッドライトなど、一部のディテールを除いて、基本的には市販のガソリン・バージョンと同様のルックスを備えるこのモデル。が、その”内部”はEV化を行うにあたって大幅な変更が加えられている。
各輪当たり1基のモーターは、リダクションギアとセットにして、前後のアクスル中央部・低い位置にマウントされる。三菱アイミーブ用の3倍の容量を備えるリチウムイオン・バッテリーは、重量配分も考慮してフロントカウル後部、センタートンネル、シート後方の3ヵ所に分散配置されている。
興味深いのはサスペンションで、フロントはガソリン・バージョンが用いているダブルウイッシュボーン式から、レーシング・マシンのようなプッシュロッド式ストラットへと“フルチェンジ”。これは、4WD化に際してフロントアクスルにもドライブシャフトを通す必要が生まれたためという。見方によっては、これは「このモデルが4WD化をしなければならないほどに強烈な動力性能の持ち主だから」とも言えそうだ。
プロトタイプゆえにハンドリングの煮詰めはこれから。
滑走路上でのフル加速体験の後、一般公道で80kmほどの距離をテストドライブ。ただし、率直なところそこでの印象は決して芳しいものではなかった。中立位置へと戻る反力が弱くフリクションの大きいステアリングは、正しい直進位置をキープするのが難しかったし、保舵感に乏しい独特のフィーリングも、高級スポーツカーのそれに相応しいものとは思えなかったからだ。ただし、AMGがこうした仕上がりを「良し」としていることは有り得ない。こうなった最大の要因は、このモデルがまだ量産仕様からは掛け離れたプロトタイプで、煮詰め作業が全く行われていなかったためと解釈すべきだろう。
コーナリング時の安定感は高かったが、これは駆動用バッテリーを低い位置に搭載したことによる低重心レイアウトの実現と無関係ではないはずだ。実際、AMGではEV仕様のSLS AMG E-CELLは、すでに市販されているガソリン・バージョンに対して「重心が23mm低い」と説明。一方で「重量は200kgほど増している」といい、こちらは操縦安定性に対してはマイナスの影響を及ぼす可能性が否定を出来ない。
前技は一切必要なし。無音の状態から一気にフル加速する。
このモデルが発表する動力性能のスペックは、前述のようにまさに“スーパーカー・レベル”。その実力を、世界にたった1台しか存在しないというプロトタイプ・モデルを用いて開催されたノルウェーでの国際試乗会場、実は閉鎖した滑走路上でのフル加速テストで体験することができた。
スタートの瞬間からホイールスピンもなく強力な加速Gが身体を襲うことは「回転数が低いほど強いトルクを発する」という電気モーターの特性と、4輪駆動というこのモデルのレイアウトから予め想像が付いた事柄。
が、自らがドライブをしながらも面食らってしまうのは、そうした発進加速のシーンが「何の前触れもなくいきなりやって来る」というポイントだった。何しろEVでは、俊敏な加速を行おうという場合でも予めエンジン回転数を高めておくといった“事前準備”は必要ない。すなわち、「無音の状態から即座に最大加速力を発揮する」という、エンジン車では成し得なかった“芸当”がごく平然と行われることに強い驚きと違和感を受けた。まさに「異次元の感覚」というわけだ。
近未来、EVスーパーカーが独自のマーケットを切り拓く。
日本では多くの人が“エコカー”のイメージしか抱かないであろうEV。それを、これまで高性能モデルのみを販売してきたAMGでは、「将来の自らのスポーツカーの姿を探る、ひとつの手段として手掛けてみた」とする。
EVが真のエコカーか否かというポイントは、充電電力をいかなる手段で発生させたかに依存する。この時代、“エコ”の基準がCO2排出量の少なさで図られるとすれば、CO2を排出しない自然エネルギーを利用しての発電法――すなわち、風力発電や太陽光・熱発電、水力発電等――で起こした電力であれば、それはいかに大量に消費してもエコという計算。昨今発表される際立った性能をアピールするEVというのは、この算術に則った上での未来的なイメージリーダーの役割を担っているというわけなのだ。航続距離が短い、高価である、といったEVにまつわる課題も、実はこうした富裕層をターゲットとした“お遊びグルマ”では余り問題になりそうにない。
かくして、EVスポーツカーやスーパーカーはこれから独自のマーケットを切り拓いて行くことになりそうだ。
