江戸時代、質素倹約の時代背景により、あらゆる色相に灰色を混ぜた百種類の鼠系の色が誕生しました。


いわゆる『四十八茶百鼠』は庶民の色彩への強い欲求から生まれた流行色です。


茶系は渋みや暖かみを感じる色を表し、鼠系はクールで柔らかい色を表しています。どちらも低彩度で微妙な色彩です。



日本の伝統色の多数が、灰色がかったダルトーンやグレイッシュトーンで占められています。




紅鼠は赤みがかった鼠色。




柳鼠は柳の緑色のような薄い黄緑がかった鼠色です。




深川鼠は緑みを帯びた鼠色。

華美を嫌い渋さを好んだ深川芸者に好まれた色です。



湊鼠は深川鼠と似ていますが青みが勝っています。湊の名は大阪の湊村で作られた湊紙から生まれた色と言われています。現在も湊紙は作られており、茶室の腰紙等に使われています。




藍鼠は藍の色みが加わった鼠色。

奢侈禁止令により手に入りやすかった藍の染料を用い、下地を薄浅葱に染めた後に鼠色を重ねました。




青鈍は青みの暗い鼠色。

平安時代は僧尼の衣の色でした。




空色鼠は青みの明るい鼠色。

薄曇りの中に微かに感じる空のような明るい色です。



藤鼠は藤色を抑えた上品な灰色。

江戸時代中頃の染見本に不二鼠の名で登場します。明治時代になると新駒色という名に変わり大流行しました。



小町鼠はほんのり赤みを帯びた鼠色。

銀鼠よりも淡く上品で華やかさのある色です。




臙脂鼠は臙脂色に濃い灰色を加えた鼠色。

紅色の持つ華やかさと鼠色の地味さを重ねると落ち着いた華やかさが江戸時代の人気色でした。



鼠色が美しい日本画を探してみました。




菱田 春草『夜桜』





木谷 千種『綻び』





北野 恒冨『いとさんこいさん』部分





菊池 契月『供燈』





上村 松園『化粧の図』





柴田 翠坡『琵琶の演奏家』





梶原 緋紗子『いでゆの雨』





伊東 深水『鏡獅子』





島 成園『桜花美人』





伊藤 小坡『機織』





喜多川 歌麿『難波屋おきた』





歌川 国芳『賢女烈婦伝』



茶色同様、鼠色を地味と感じるか粋と思うかは人それぞれですが、渋くて粋な鼠系統の日本画は繊細で気品に溢れた作品が多いようです。

描かれた人物がセンス良く見えるのは、上品で控えめな色彩だからでしょう。


鼠色は日本の心そのものを表しているようです。





色を楽しむ素敵なあなたへ...


最後までお読みいただきありがとうございます💕