神祖の祝福を受けた神の中に、絵画とピアノを愛した者がいる。

 

彼が描く世界は現実に潜む幻想のように美しく、指先から紡がれる音の物語はゆるりと胸を締め付けられるような切ない懐かしさを感じさせるという。

 

「こんなところかしらね」

 

空中に魔法の絵筆を滑らせ、純白のピアノを創造すると紅茶神は満足気に頷き、椅子に腰を下ろす。

 

透明なガラスの鍵盤に指をそっと乗せると、以前エンド神が聞き入っていた曲を奏で始めた。

 

「……!」

 

雨粒が水面に叩きつけられる音、雷の爆音、大地の奥底から湧き上がる地響き。

 

先程まで音の洪水の中にいたはずなのに、気が付けばそれらの音は一切消え、ピアノの美しい旋律だけが天使の耳に届き彼女は目を見開いた。

 

いや、天使だけではない。

 

「────“純美の芸術神”。その異名を天上界で聞いたことがありますが、成る程。確かに美しい」

 

リピート神と紅茶神の側に響く、凛とした女の声。

 

「せ、せんぱ…」

 

「しかし、まだ足りない」

 

女…ゲドウ神はそう呟くや否や、手元に魔法陣を展開し、そこからライフルのような銃器を形成すると天使の頭上に浮かぶ茨の輪に向け銃口を構える。

 

そして。

 

「人が人を救おうとするのは烏滸がましいでしょう。ですが、私は神で人ではない。故に、この私に救いを求める者がいるなら救いましょう。傲慢に、冷徹に」

 

天使がソレに気付くより早く、茨の輪を撃ち抜いた。

 

紅茶神が奏でる旋律に気を取られ油断していた天使はその衝撃にぐらりと体を傾け、その隙をつかれて足首の錠もゲドウ神によって破壊されてしまう。

 

「その身の罪はこの私が赦しましょう。さぁ、狸寝入りを決め込まずそろそろ出ていらっしゃい。ソレを止められるのは、御前だけなのだから」

 

その声は、己ではどうにも出来ないと諦め、ただ見ているだけだったエンド神を突き動かした。

 

「ッ…やめろ、暴れるなァ…!」

 

茨の輪は堕天の証。

 

足枷は罪の重さ。

 

それらの効力は天使とは最早別人格であるエンド神にも適応されていたが、破壊されたことによりエンド神は名ばかりの神ではなく神格を得た。

 

それが、ゲドウ神とルトに与えられた赦し。

 

故にパワーバランスはエンド神に傾き、彼女は天使の意識を深層に引きずり込もうと腕を伸ばし、掴んだ。