■九章
勢いよく降る大粒の雨は川を氾濫させ、街や人々を容赦なく飲み込んでいく。
その様を、天使は空から無表情で眺めていた。
小屋の中にいたリピート神と紅茶神は山頂から世界が水没していくのを見下ろし、いよいよ不味いことになったと冷や汗をかきながら、一時身を隠していた小屋へとまた戻る。
「外の様子はどうだった?」
突然意識を失った兄を見ていたルカは、ずぶ濡れになって戻って来た二人を見ると首を傾けた。
「酷い有様ッスよ、どんどん水かさが増して街が沈んでる。一刻も早く彼奴を止めないと…」
「でも、私たちじゃ太刀打ち出来ないわよね…」
「そこなんスけど、神祖様の力でどうにかならないんですか?天使よりも力は上ッスよね?」
現在の天上界の序列には適応されないものの、元々天上界の原始である箱庭に身を置いていた天使も原始序列順位というものを付けることができる。
それで言うと天使は序列三位だが、それより上にルカがいるため、能力値は当然ルカの方が上となる。
しかし、神祖としての役割は“平等に見守ること”であり、例え世界が崩壊することになろうともその原因を作った者に手を下すことは出来ない。
ルカは申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「…今まで君たちに祝福を与えるという形で干渉したのは神祖としてでなく、兄のことを思う弟のルカとしてで。だから、神祖としての僕は何も出来ない。ただ、見守るだけだ」
神祖が何も出来ないとなると、もうここには天使を止められる者も、手段もないということではないのか。
ぽつりと、紅茶神が零す。
「こんなとき、ゲドウちゃんならどうするのかしらね」
未だ目覚めぬ彼女を見やり
「先輩ならきっと根拠も無く大丈夫だって笑って、どうにかしてくれるんじゃないッスかね」
リピート神はそう答えて、小屋の外へ出て行った。
その後を紅茶神が追う。
「どうするつもり?」
「俺が時間稼ぎしている間に、神祖様には先輩連れて天上界まで避難してもらおうかと」
「闇雲に突っ込んでも無駄死にするだけよ」
戦い慣れているはずの戦神や悪魔ですら、天使に掠り傷一つ負わせることが出来なかったのだ。
よっぽどの妙案でも浮かばない限り、自分たちが天使に立ち向かうのは自殺行為に等しい。
リピート神は分かってると言いたげに頷いた。
「まずは、エンド神を引きずり出すッス。手伝ってもらえます?」
「勿論よ。それで?私は何をすればいいの?」
「ピアノを、弾いて欲しい。エンド神が気に入っていた曲を聴かせれば、もしかしたら…」
うーん、と僅かに不安げな表情になるも直ぐに
「いいわ、公演を始めましょう」
リピート神の案に乗り、音色が届くように山の頂まで飛んだ。