「ゲドウ神。君の願いは、何?」
数拍の間を空け、シキと視線を合わせると口角をあげてみせ。
「私の願いは、自分で叶えます」
はっきりと言い放って立ち上がった。
「そろそろ行きます。彼女を救ってやらねばなりませんから」
「ふふ、そう。行ってらっしゃい。またね」
扉を開けて部屋を出て行く彼女を見送り、入れ替わりで執事がやって来ると
「あの双子を出口まで案内してきました」
「ご苦労様」
報告を受けてシキは小さく笑った。
「ご機嫌ですね、シキさん。ただの夢人でないのに魔法をかけるなんて、珍しい」
夢人とは、ここ────夢幻世界に迷い込んだ、こことは別の世界からやってきた生物のこと。
ゲドウ神はその世界とは異なる世界からやって来た、少し異質な存在故、シキが彼女に“また”と告げて縁を繋ぐことは、執事にとって非常に珍しいことだった。
「ふふ、マスターがあの神様を好きになるのが何となく分かるよ」
窓の外へと視線を移すと、門の外へ歩いて行くゲドウ神の姿が見える。
彼女の背に向けて、シキは言葉を紡いだ。
「君の旅は過酷だけど、どうか最後まで目を閉じないで。彼等が君に与える魔法は希望になり、決して潰えることはないのだから。そして、君が夢幻世界に再びやって来た時は、ゆっくり話を聞かせてね」
館の門を潜り、白い霧で覆われた森の中を歩く。
暫く行くと、その場に似つかわしくない濃青の鉄の扉が現れ、その前にはクズ神とカス神が佇んでいた。
「クズ神。カス神」
二人を呼ぶゲドウ神の声に、姉弟は静かに振り返る。
その目の光は弱く、表情はない。
「……嗚呼、己の役割を思い出したのですね」
二人の頬に手の平を添えて撫でると、ゲドウ神は目的地を告げた。
「門番よ、私を彼等の元へ連れて行きなさい」
二人―――世界と世界を繋ぐ扉の門番は同時にこくりと頷いてゲドウ神から離れ、扉の取手に手を掛ける。
鈍い音を立ててゆっくりと扉は開かれ、左右に立ってゲドウ神を見上げた。
ゲドウ神は二人の間をすり抜け、迷わず扉の先へと足を踏み出して夢幻世界を後にした。