「やぁ、いらっしゃい」

 

少年とも少女とも取れる声音はルカのようでありながら全く違うようにも思え、容姿や纏う空気感はルカというよりもルトによく似ている。

 

ちょうどルトとルカを足して二で割ったような、何とも不思議なソレをじっと見つめるゲドウ神。

 

彼女の視線を受けてソレはふふ、と口元を緩めると「こちらにおいで。紅茶を淹れよう」と手招きをする。

 

「ここは?」

 

「夢幻ノ館だよ。生物が眠った時に見る“夢”の世界のどこかにある、何でも願いを叶えてくれる不思議な館」

 

「ほう。と、いうことは夢の中でありながら、私がいたところとはまた別の世界でもある、と?」

 

「そういうことになるね」

 

ティーカップに紅茶を注ぎながら、ソレは頷く。

 

「そして、僕は館主のシキ。よろしくね」

 

「はぁ。私は……」

 

名乗ろうとして、はたと気付く。

 

「……名前が、思い出せない」

 

神性を殆ど失っている故か、己が何かの神であることは分かるのに名前が全く出てこない。

 

小さく唸るゲドウ神に紅茶を差し出すと、シキは彼女に問いかけた。

 

「ねぇ、神様。君の願いは何?」

 

「……願い?」

 

問われて、思考する。

 

(私に願いなどあっただろうか)

 

名前を思い出すこと?

 

それとも、館の前で聞いた、誰かの願いを叶えること?

 

「……違う。そも、私が誰かを救おうなどと思うのは烏滸がましい」

 

「………」

 

シキは懐から丸い物を取り出し、それをゲドウ神に差し出した。

 

「飲み込んでごらん」

 

受け取ったソレは飴玉のようで、包みを開くと青色の球体が出て来た。

 

ゲドウ神は言われた通り、ソレを指先で摘んで口の中へ放り込む。

 

喉を押し通る異物感はあるものの数秒でぱっと消え、刹那────どくり、と心臓が大きく脈打った。

 

「…!」

 

血液のように神性の力が体中を巡る感覚に最初は驚いているようだったゲドウ神は、やがて息吐き、口角を上げる。

 

「感謝しましょう、夢幻の管理人。足りない神性を補充出来たおかげで、意識も記憶もはっきりした。…しかし」

 

 

 

 

『あの人に恩を返したい。だから、僕が持つ全ての力をあの人に』

 

『そうすると、君は視る力を失うだけでなく、死んだ後あの世界の核に囚われることになるけれど。良いの?』

 

『世界の核に囚われる、というのがどういう事か分かりませんけど…あの人の力になれるなら、構いません』

 

『そう。…いいよ、願いを叶えよう』

 

 

 

 

自分より前にここを訪れ、願いを告げた彼────深夜の未来が大きく変わってしまったこと。

 

そうなることを知っていたルトが最後まで深夜の力に手を伸ばさなかったことを、千里眼で知り。

 

彼女はそっと目を伏せ、続ける。

 

「出来る事なら、あの子の未来を変えずに済む手段が欲しかった」

 

「……。そうだね」

 

頷き、再びシキは問うた。