■八章

 

 


天使は考える。

 

これ以上時間を掛けないためには一体どうすれば良いのかと。

 

そして、一つの答えに行き着く。

 

世界ごと、彼らを一掃してしまえばいいのでは。

 

そのあと、もう一度全部やり直せばいい、と。

 

果たしてそんなことは叶うのだろうか。

 

天使の思考を共有しているエンド神は思う。

 

エンド神の思考もまた天使と共有しているため、彼女は眉を顰めて呟く。

 

「叶えるんだよ」

 

槍を高々と掲げて。

 

天使は誰にともなく告げた。

 

「“Merry End:世界終末”」

 

次の瞬間、ゴゴゴゴと不気味な地鳴りが響き、ぐらりと世界が揺れる。

 

けたたましく鳥が喚き飛び、それを合図に雷雲が世界中の空を覆い尽くし、爆音と共に鋭い光の雨が地上に降り始めた。

 

海の水位は急上昇し小さな島から荒れ狂う水の中に飲み込んでいく。

 

こうなってはもう、誰にも止めることなど出来ないだろう。

 

「全部、全部!壊れてしまえばいいよ。またルカが一から世界を創り直してくれるから」

 

「………。そこに、私はいないだろうけれど」

 

彼女の言動が無茶苦茶なのはきっと、理性的な、本来の彼女が奥底に残っているからなのかもしれない。

 

なら、まだ間に合うのでは。

 

エンド神は、彼女が恋い焦がれた神祖でも、神祖の兄であるルトにでもなく────己がよく知る、外道の神に願った。

 

『自分勝手なのは分かっている、が。どうか、“私”を救ってほしい』

 

 

***

 

 

救ってほしいと、誰かに願われた気がした。

 

いや、事実として彼女────ゲドウ神は彼の神に願われたのだが、たった今目覚めたばかりで意識がまだ明瞭でなく、“気がした”と思ってしまった。

 

そもそも、自分は本当に目覚めているのだろうかと、ゲドウ神は目の前の古びた館を見上げた。

 

後ろを振り返ると鉄の門が開かれており、その向こうは白い霧で覆われていて何も見えない。

 

「ふむ。どうやらここは夢の中のようですね」

 

そう結論付けて、無遠慮に館の重厚な扉を開くと中へ足を踏み入れた。

 

「いらっしゃいませ」

 

扉の向こうに控えていたのは、少し癖のある黒髪の執事だった。

 

ゲドウ神が応えるのを待たずに彼は「こちらへどうぞ」と声を掛け、廊下を歩いていく。

 

大人しく執事の後をついて行くと、ある部屋の前に案内され「ここは?」と首を傾けた。

 

「館主様の御部屋です」

 

執事が扉を開けると、ふわりと馴染みのある香りが漂い、ゲドウ神は頬を僅かに緩める。

 

部屋に入るとアオザイやチャイナ服の形に洋装的な特徴を加えたような衣類を纏う、緑がかった黒髪を後ろに束ねたソレがゆったりと紅茶を飲んでいた。