彼の脳内にするするとあの話が流れ込んでいくのが解る。

 

暫く目を見開いていたけれど、やがてふう、と息を吐いて。

 

「成る程、ね」と、悪魔は呟いた。

 

「欺くのは悪魔の領分、君の話に乗ってあげるよ。俺は何をすればいい?」

 

「箱庭から離れた僕は神としての力を殆ど失って、この形を保っていられなくなる。僕が魂の状態になったら暫くはソレを保護していてほしい。そのうち人が歴史を築き始め、17世紀という時代まできたら、英国という場所まで魂を運んでおくれ」

 

「そこから先はどうするの?」

 

「僕の意思とは関係なく、転生の準備が始まるから。…彼女がある程度成長したら、タイミングを見て彼女の一番の友人を貶めて、彼女が人としての生を終えるよう仕向けてほしい」

 

「そんなことしたら、わざわざその時代まで魂を運んだ意味はないんじゃないの?」

 

いいや、と僕は口元に笑みを浮かべた。

 

「その時代で生まれ、生き、そして誇りを持ったまま残酷な死を迎えることに意味があるんだよ。でないと、彼女は優しい神様にはなれないからね」

 

「優しい神様、ね。それはつまり、神に転生するってこと?」

 

「まぁそんなところかな?」

 

その後、僕はどの“僕”も視ることが出来なかった、所謂イレギュラーな存在が何人かいること、天使が僕を消しに現れること、この世界が終わりを迎えたとき彼女の永い旅が始まること、そしてその旅の結末を視たことを話し。

 

魂という形に姿を変えて暫しの休息を取るべく、微睡んだ。

 

 

***

 

 

幾度となく繰り返してきた創世神話の崩壊。

 

ここは、その繰り返しの先の“二度目”の世界。

 

崩壊から現在までの時間を繋ぐためには、あの時誰にも、何も悟られずに箱庭から落ちる必要があった。

 

そして、ルトは視た通りに事を進めていかねばならない。

 

ゲドウ神が、最も良い結末に辿り着くために。

 

故に、ここで彼等に自身の計画を話すわけにはいかなかった。

 

「……ごめんね、話せない。だけど、ハンナの為になることだから、僕を信じて今は何も聞かないでほしい」

 

気まずそうに目を伏せる兄の様子に、ルカは「仕方ないなぁ」と笑う。

 

神祖がそう言うなら、とリピート神、紅茶神もそれ以上は何も聞かない。

 

「嗚呼、そうそう。兄さん、これ飲んで」

 

懐から飴玉ほどの大きさの球体を包んだ物を差し出すルカを一瞥し、「それ、なんスか?」とルトよりも先にリピート神が首を傾げた。