英国、ローウェル邸。

 

神祖と名乗る青年が訪ねてきてから、ヴェロニカはずっと引っ掛かっていることがあった。

 

何かを考えているような表情でじっと窓の外を見ている彼女に、空いたティーカップや皿を片付けながらオリビアは暫し声を掛けようか、どうしようかと悩むも「如何なさいました?」と緩く首を傾ける。

 

遠い地へ意識を向けたまま、ヴェロニカは答える。

 

「…いや、神祖の話がどうにも解せんのよ」

 

「解せない、と言いますと?」

 

「御前もアレの話を聞いていて、引っ掛からなかったか?何故アレの兄がシナリオ通りに落ちた理由だけ全く分からないのか、と。アレの目は過去を映す、ならば当時は分からずとも今ならば理由は視えるはずだろう」

 

「嗚呼…そこは私も気になっておりました」

 

「だろう。…お前はどう思う?」

 

問われ、オリビアは手を止める。

 

「そうですね…神祖様の兄君が把握していた未来と、実際に起きていること。それが違っていたか…或いは…」

 

「全てを知った上でその通りにしなければならないだけの理由が、奴にはあった。か?」

 

「はい。そうなると、今度はその理由が一体何なのか…と、頭を悩ませることになりますけれど」

 

苦笑いを浮かべて、食器を下げるためオリビアは部屋を出て行った。

 

ルトが、シナリオを演じなければならなかった理由。

 

ローウェルはヴァンパイアの系譜であり天上界との繋がりは一切ない。

 

そのため、神祖という存在や世界の成り立ちを知っていても、神の思惑など知る由もないが、ゲドウ神の前世が神祖の兄なら話は違う。

 

「…世界のため、そうするしかなかった。などという理由だったりしてな。もしそうなら、御姉様の前世とやらは一体その目で何を視たのか」

 

今回、ローウェル家は何も出来ない、そのもどかしさと何とも言えないもやもやに眉を顰め、ヴェロニカは部屋を後にした。

 

 

***

 

 

日本、霧谷家。

 

「いって、きます…」

 

「夕方には戻れると思うけど、遅くなりそうだったら連絡しますね」

 

午前九時過ぎ、玄関前で深夜と日暮は留守番組の夜明と真昼に告げ、ドアを開けた。

 

二人に手を振る真昼の隣で夜明は暫しじっと兄を見つめると、腕を伸ばし深夜の肩を掴む。

 

「夜明?」

 

「……。ちゃんと、戻って来るんだぞ」

 

「?勿論です。では、行ってきます」

 

わしゃりと弟の頭を撫で、日暮の手を引いて深夜は家を出た。

 

「夜明たん」

 

「なんだ」

 

「本当は、無理しないでって言いたかったんじゃないの?」

 

「……何でわかったんだ」

 

「だって夜明たんの妹だもん」

 

へへ、と得意気に真昼は笑って兄を見上げた。