森の中に入って、数十分後。
「ヤンシ、いたら返事をして」
天使と共に、どこにいるか分からないヤンシへと呼び掛けながら奥へと進んでいくルトは、ふと立ち止まって辺りを見回す。
『この先は悪魔が探しに行っているので、私たちは彼方を見てみましょうか』
ルトの後ろを歩いていた天使も立ち止まると
「うーん、ヤンシは賢い子なのでこの辺りに戻って来ているかと思ったのですけど…この先は悪魔が探しに行っているので、私たちは彼方を見てみましょうか」
困ったような声音で言い、左へ伸びる道を指差した。
「……。そうだね」
振り返って頷くと、ルトはまたぐんぐん歩みを進め始めた。
「ところで、」と今度は振り返らずに訊ねる。
「どうして柘榴の実を口にしたんだい?」
「……何のことですか」
「仄かに、柘榴の花の匂いがするんだよ。君から。…それに、」
ルトは一度口を閉じると、歩みを進めたまま続けた。
「瞳の色が少し濃くなってる。柘榴の毒が回ってきているのだろうね」
「……やっぱり、貴方の目を欺くのは難しいですね」
ぽつりと、天使は呟く。
「これでも一応、神様だしね。…でも、柘榴を口にした理由までは分からない。アレから受ける恩恵は多いけれど、僕とルカ以外が口にすれば恩恵の代償を払わなければならない。だから、絶対に手を出してはいけないと、ルカから教わらなかった?」
「…教わりました。けど、毒を取り込んででも私には叶えたい願いがあります。だから」
「だから、禁忌を犯した、と。……今なら引き返せるけれど、きっとそのつもりはないんだろうね」
ルトは静かに息を吐くと、地面に仕掛けられていた魔法陣を何の躊躇いもなく踏み抜いた。
その瞬間、地鳴りと共に大地は揺れ────大きな亀裂が二人の間に入っていく。
天使は内心「上手くいった!」とガッツポーズをしたが、まだ全て終わった訳ではないし、むしろここからが本番だと表情を引き締めた。
「……」
無言で空を見上げ、これから起きるであろうことを思い、ルトは何とも言えない顔をする。
そうしているうちに亀裂は箱庭の底にまで達し、一部分が砕けてルトごと下へ下へと堕ちていく。
刹那、天使はルトと目が合い、彼が何かを自分に向けて話していることに気付くも、何と言ったのかまでは分からず堕ちて行く様をじっと見ていた。