「うん、そうだね」とルトは頷き、口を閉じる。
彼の様子に、深夜と日暮は可能性がゼロではないと推測し、期待のこもった眼差しを向けた。
そんな二人の期待に反し、ルトは首を横に振る。
「………。二人の力を合わせても彼女を起こすには足りない、かな」
「俺の力を合わせてもダメッスか?」
どこから話を聞いていたのか、リピート神は扉を開けると真剣な表情で訊ねた。
「恐らく」
「…他に何か方法はないんスか?」
「今のところはないね」
リピート神と深夜は落胆したように肩を落とし、日暮だけは無言で何かを考えているようだった。
リピート神と霧谷兄妹が霧谷家に戻ると、ルトの様子を見に来たユカ神は珍しく落ち着いた口調で問いかける。
「外の世界を見ていたと以前話していらっしゃいましたけど。それってつまり、師匠を襲った犯人もばっちり見てるってことですよね。…本当は、犯人に心当たりがあるんじゃないですか?」
クッションに突っ伏していたルトは顔を上げて苦笑を洩らした。
「やっぱり、僕は隠し事が下手みたいだ。それとも、君が鋭いのかな。…かつて、フランス最強と謳われた諜報員…イネス・ミィシェーレ」
「……私の記憶を?」
「ううん、記憶は見ていないよ。君は千里眼を知っているかい?」
「先を見通す目のことですよね、それが何か」
「僕の目は、全てを見通すことが出来る。君の過去も、これから起きることも、全て。……昔から知っていて、何もしなかったんだ」
ルトは体を起こし、藍色に染まりつつある空を眺めながら、独り言のようにぽつぽつと零した。
「ハンナを襲ったのは、箱庭から追放されてしまった天使。あの子はね、永いこと僕を憎んでいる。けれども今を生きているのはハンナで、もう僕ではないから…何も知らないハンナに縋って、僕は逃げていたんだ」
彼の独り言が止むと、ユカ神は心底呆れたように「貴方って、物凄く面倒くさいですね」と返し。
一際強く煌めく星を見つめた。
「本当に知らんぷりして逃げてる人は、いくら苦しくてもそんなこと他人に漏らしませんよ。なんていうか、多分ですけど生き辛そうな性格してるからこそ、こうなんじゃないですかね」
「……と、言うと?」
「私は貴方ではないので、これは私の想像でしかないんですけど。全部知ってて、貴方は僅かな抜け道とか、最善策とか、キャパオーバー起こすくらい考えて。けれども、どれも貴方の望む答えには行きつかない。だから、あえて知らんぷりを決め込み、機を窺っているのでは。それが最善だったから」
「あ、そろそろ夕食の時間ですよ!行きましょう」と先程までとは打って変わって明るい表情でルトの手を取ると、にっこり笑ったままユカ神は告げた。
「神祖のお兄さんだからとか、そんなんで全部貴方が背負うことないんですよ。最早これは私たちの問題でもあるので、一緒に考えていきませんか?」
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