「彼女が神として生き続けているうちに人々から信仰、或いは畏怖や何かの象徴として認識されるようになり…その認識によって彼女の持つ神性は二、三と変化していった。ルカが与えた神性はそれに伴って減っていき、今ではハンナの神性が四、ルカの神性が一。これでバランスは保たれ続けた、と。ここまではいいかな」
「嗚呼、問題ない」
「うん、それじゃあここから少し難しくなるけど。僕には神性しかないけれど、ハンナと同じでトータルは十なんだ。で、僕が表に出ていることにより、僕自身が持っている神性十と、ルカのものではない、彼女自身の神性四が入れ替わってしまった。…いや、食い潰した。だからこの身体にあるのは彼女の魔力五、ルカの僅かな神性が一、僕が持っている十」
「……つまり、先輩を目覚めさせるのに必要なのは、先輩が持っていた四割の神性…しかもただの神性じゃなくて、ええっと…信仰心か、象徴的な認識によって成り立つものでなければならない…で、合ってますかね?」
小難しい話が苦手なリピート神は必死に頭の中でルトの言葉を整理し、頭痛に耐えるようにこめかみを押さえて訊ねた。
苦手な問題を自力で解いた子供を褒めるようにルトは「そういうこと」と微笑み、頷く。
「人間でなくてもいいんだけどね、これに関しては。神が神を信仰することだって稀にあるわけだし」
「まぁ、これについては何か此方で考えておくよ」と神々と深夜、日暮を安心させるように告げると、場に似つかわしくない欠伸を漏らしてルトは横になった。
「ごめんね、少し疲れてしまったから一旦休ませてもらうよ。おやすみ、次は君たちの話を聞かせてほしいな」
そうして、彼はゆっくりと目蓋を下ろした。
***
イタリア北東部に浮かぶある島に、ヴェネチアで最も古いと言われている教会がある。
黄昏の光が鮮やかなステンドガラスを、そして教会内をほんの一時の間黄金色に染め、幻想的な絵画の中にいるような錯覚に彼とも彼女とも呼べるソレは陥りかけていた。
柱に背を預けるようにして座り込むソレの表情は目元を隠す仮面によってあまり分からないが、どことなく憔悴しているような空気を纏っている。
ソレはぽつりと、寂しげな色を滲ませて呟いた。
「……茶会に、参加出来なかったな」
しかし次の瞬間、人が変わったように
「今度こそ、神の座から引きずり降ろしてやる」
冷ややかな声音で不穏な言葉を零した。
そんなソレに向かって差し出された、一人の手。
顔を上げると、いつからそこにいたのか、最古の悪魔は口角を上げてソレを見下ろしていた。
「俺と御前の願いを叶えに行こう」
ソレは、迷わずその手を掴んだ。