ゲドウ神とリピート神が霧谷家に戻った頃には既に日は沈み、夜になっていた。
「あの、先輩」
ソファーに腰を沈め、ゆったりと寛いでいるゲドウ神の隣に立ち、風呂から上がったばかりで濡れたままの髪を拭きながらリピート神はあの事を訊ねてみるべく、口を開く。
「御茶会のとき、俺の事名前で呼びましたよね?今まで人前では呼んだことなかったのに」
「………。覚えていませんね」
「………、なんかここ最近少し変ッスよ。体調でも悪いんですか?」
「いえ、別にそういうわけでは」
明らかに何かを隠している様子のゲドウ神を暫し横目で観察すると
「俺にも話せないことッスか?」
わざとらしく落ち込んだ風に眉尻を下げ、彼女を見下ろした。
昔から彼のこういう表情には弱いゲドウ神は仕方ないと言いたげに肩を竦め、観念してここ最近のことを話し出した。
「少し前から、自分の記憶を遡るように昔の夢を見るんですけどね。目を覚ました時、人格というか意識が、その日見た時間軸の自分のモノになっているようで」
「俺の名前を呼んだあのときも、別の時間軸の先輩だった、と?」
「いや…あれは単純に、ここ数日まともに眠っていないから頭が働かなくてうっかり、ね。……最近は明らかに私の記憶ではない夢まで見るようになって、このままでは、私の知らない過去に意識を持っていかれるのではと思いまして」
「成る程…」
想像していた以上に彼女が抱えている問題は深刻なもので、どう声を掛けたものかと首を傾ける。
辛うじて浮かんだ言葉は、しかし恐らく気安めにしかならず、何の役にも立たないだろう。
リピート神は小さく唸ると、
「本当は俺が何か良い案でも言えれば良いんですけど…ブログ神に相談してみましょうか。一応医者だったとは聞いてるんで、彼奴なら何か良い対策案が浮かぶかもしれませんし」
「今からですか?」
「はい、こういうことは早い方がいいッスよ」
頷けば善は急げとばかりに椅子に掛けていた上着を羽織り、ゲドウ神を残してリビングを後にした。
「病気というより、一種の先祖返りかも、それ」
一通りリピート神から話を聞いたブログ神は、己の記憶に残っている様々な分野の知識から先祖返りの類であると考え、しかし断定は出来ず何とも言えない顔で告げた。
「分かりやすく言えば、時間が巻き戻った状態なんだけど」
「先祖返り、ねぇ…そんなことってあるもんなんスか?」
「さぁ…実例は聞いたことないけど、現にゲドウ神さんの状態がソレと酷似してる」
ほら、と先祖返りについて書かれているページを開いてリピート神にPC画面を見せる。
「うーん…本人に直接話を聞いた方が分かりやすいし、明日そっち行こうか?」
「んー…出来れば今すぐ見てほしいんスけど」
「俺は構わないけど、深夜くんたちは?」
「日暮ちゃんは家にいるけど、他の三人は帰りが遅くなる予定なんで…一時間くらいなら大丈夫ッスよ」
「ふーん。じゃあちょっとだけ様子見に行くかな」
リピート神の様子から深刻さを察し、ブログ神は霧谷家へ向かう準備を始めた。
黒革の鞄にメモ帳や何かの薬、瓶などを入れていくブログ神を眺めながらリピートは妙な感覚に眉を顰める。
神といっても特別な能力は何も持っていない(或いは、持っていないと思い込んでいるだけの)リピート神だが、嫌な予感、というのだろうか。
そういう感覚は人間時代からよく当たるため、そわそわと視線を彷徨わせた。
「どうした?」
準備を終えたブログ神は首を傾げるも返事が返って来る前に
「行くぞ」
それだけ言って、さっさと部屋を出て行った。
「あ、ちょっと待ってくださいよ…!」
リピート神は慌ててブログ神の後を追い、彼の部屋を後にした。
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